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 背景にあるのが人手不足だ。この会社の施設は、日中あずかるだけでなく宿泊もできる「お泊まりデイ」をしていた。規定では利用定員を10人としていたが、多い時は1カ所で15人の利用者を受け入れたのに対して、職員は6人ほどしかいなかった。日中は3人、夜間は1人で対応するが、半分はパートで、男性のような常勤職員は長時間労働が常態化していた。多い月で夜勤が15回あり、勤務時間は法定労働時間の1.5倍以上の月280時間にのぼったこともあったという。

 この介護職員はこう話す。

「虐待は絶対に正当化できませんが、過酷な労働が職員から気持ちの余裕を奪い、一線を踏み越えた言動につながっていると思います。いつか自分も加害者になるのでは、と思うと怖くなって会社を辞めました」

夜勤に入ると、翌日まで24時間以上働かされるのが当たり前

 横浜市の有料老人ホームで3年前まで介護職員をしていた男性は、必要な介護さえ放棄される現場を見てきた。酸素吸入が必要な人の鼻からチューブが外れてアラームが鳴ったのに放置されたままだったり、杖をつかないと歩けない人を1人で風呂に入れたりしていたという。こうした事例が市に報告されることもなかった。

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 ここでも、背景にはやはり人手不足と過重労働があった。夜勤に入ると、翌日まで24時間以上働かされるのが当たり前だったという。職員の目が行き届かず、入居者が大けがしそうになったことも、1度や2度ではなかった。

「ストレスがたまり、職員は次々に辞めた」と職員は振り返る。

「ひもつきケアマネ」

 介護保険には「ケアマネジャー」(介護支援専門員、ケアマネ)という仕事が欠かせない。実際に介護サービスをするのはヘルパーら介護職員だが、利用者にどういう介護サービスが必要かを判断して、どのように提供するかを計画する「ケアプラン」を作る。利用者の心身の状況に応じて医療を含めた各種サービスを提供できるよう、公正中立であることが求められている。ケアプラン作りは介護保険からすべての費用が出るため利用者は自己負担する必要がない。少なくとも月1回は利用者に面談することになっていて、場合によっては家族より身近な存在になることもある。

 大切な仕事だが、介護施設や訪問介護会社の一職員として、低い給料で働くのが実態だ。ときには施設などの都合でケアプランを作ったり、自分が勤めている訪問介護会社のサービスを使うことを高齢者に押し付けたりする「ひもつきケアマネ」もいる。