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亡くなって1日すぎてから家族に連絡、原因も答えられず

 当時、調査に入った区役所の元職員は「ホームでどういう介護が行われていたのか、また、どうして死亡に至ったのかの裏付けが難しく、悪質な虐待と認定できなかった。別件で文書指導するぐらいしかできなかった」と悔やむ。

 ただ、亡くなった老人の家族のなかには怒りが収まらない人もいた。

「急変があっても連絡をせず、亡くなって1日すぎてから家族に連絡したり、亡くなった原因をはっきり答えられなかったりして、家族とトラブルになっていた」(元職員)

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 区役所の元担当者らによると、このホームが経営する別の施設では部屋の外から鍵をかける「監禁」があったり、施設長が看護師の資格がないのに褥瘡(じょくそう[床ずれ])の処置をしたりしたとして、役所が指導したこともあったという。元職員は「施設長は『独裁者』で、書類の改ざんなどの不法行為を職員に無理やりやらせたので、職員は次々と辞めました。施設長の指示に逆らってわずか1日でクビになった職員もいました。私を含めた元スタッフの多くは、施設に残る老人がかわいそうと思いながら、後ろ髪をひかれる思いで去りました」と語る。

過酷な勤務がストレスに

 なぜ介護施設で虐待が広がっているのか。実際に虐待の現場を見たり聞いたりした職員からも取材した。

 介護職員の男性(40)は、数年前に東京都内のデイサービス施設で目にした虐待が忘れられない。ある職員が80代の利用者を殴り、眼底出血の大けがを負わせた。利用者はパーキンソン病と認知症を併発していたが、職員は「言うことを聞かないので手が出た」と話したという。

 男性が勤めていた会社が運営する千葉県の別のデイサービスでは、精神障害などで対応が難しい利用者がくると、食事や入浴の時間帯以外は部屋に鍵をかけて閉じ込めていた。だが、ある時、1人が抜け出して外で凍死した。鍵をかけず、職員による見守りを強化する改善策が取られるかと思ったが、相変わらず閉じ込めは続いたという。