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特集観る将棋、読む将棋

2021/04/25

AIが6億手読まないと候補に挙がらない手

――遠山先生は、藤井聡太二冠のタイトル戦で印象に残っているのは、どの対局ですか?

遠山 終盤の連続王手が話題になった棋聖戦の第1局と同じくらい、棋聖戦の第2局も藤井さんの妙手3一銀が話題になりましたよね。

――AIが6億手読まないと候補に挙がらない手でしたね。

遠山 ただ私は4局目が好きでしたね。藤井聡太さんがタイトルを取った一局ですし、飛車が取られそうな場面で、なんでもないようなところに藤井さんが桂馬をポンと打った。この一手がすごい手で、記憶に残っています。

――朝日杯の準決勝渡辺明vs藤井聡太の一局も注目を集めていますね。

深浦 今年の渡辺さんは斬られ役になっちゃいましたが、渡辺さんは感想戦も面白いんですよね。

――それはみなさんも感じておられるようで、感想戦にふれたコメントも多々ありました。ひとつご紹介します。

〈互いに1分将棋になった最終盤、渡辺名人の勝ちは目前と思われた盤面から、藤井二冠が大逆転を決めたシーンは非常に心に残りました。金捨てから、渡辺名人に詰筋があったそうですが、後の感想戦でも、この詰筋について、渡辺名人が「これは見えない」と言われていたのが最も印象深いです〉

遠山 渡辺さんの「これは見えない」というコメントは、この対局の面白さを際立てていますね。

――続いて投票で3位になったのは、木村一基王位vs藤井聡太棋聖の王位戦第4局でした。

遠山 封じ手の「8七同飛成」が話題になりましたね。

「同飛車成」が話題になった王位戦第4局 写真提供:日本将棋連盟

深浦 豊川さん(孝弘七段)が何度も何度も「同飛車大学」と言ってたのが、ようやく日の目を見ましたね(笑)。

――わはは(笑)。ダジャレで有名な豊川さんは、副立会人として現地入りしていたんですよね。読ませる文学的な投票コメントがあったのでご紹介します。

〈飛車を逃げる一手に見える局面で不気味な長考に沈む藤井棋聖。封じ手の時間を過ぎても盤上没我で読み耽る姿に対局室が異様な雰囲気に包まれていることが画面越しに伝わってくる。翌朝、封じ手開封で読み上げられた手は、飛車を切る8七飛成。観る将の元祖・織田作之助は、坂田三吉の9四歩を新聞で目にして「『坂田はやつたぞ。坂田はやつたぞ。』と声に出して呟き、初めて感動といふものを知つたのである。私は九四歩つきといふ一手のもつ青春に、むしろ恍惚としてしまつたのだ」(「聴雨」)と喜んだが、オダサクが8七飛成を知ったら「藤井はやつたぞ。藤井はやつたぞ」と叫んだにちがいない。まったく8七飛成の輝きは「青春」そのものだった。豪雨災害の被災者支援のために対局で使用した封じ手をチャリティ・オークションに出品しようという木村王位の提案にも心温まる思いがした。将棋ファンであることを誇りに感じた一局〉(37歳・男性)