1ページ目から読む
3/5ページ目

「衝突したら乗客が犠牲になるのか」

 3000形、3100形の開発に関わった小田急OBの生方良雄氏は、「SE(3000形)の軽量高性能、車両長あたり自重の軽いことは画期的でした。車内通路の一部に斜路を設け、車椅子などの歩行不自由者対策をとりました。ただ残念なのは、連接台車の上の通路は当時の技術では精一杯でした」という。

 やりきれなかったとはいえ、1957年時点で車いす対応を念頭に置いていたことは画期的かもしれない。しかし、生方氏が箱根ロープウェイに出向して専務取締役になってから作られた10000形は、ハイデッカー構造が国の移動等円滑化基準に沿わなくなって早期引退となった。これは皮肉なことだ。

10000形展望室

 3100形には苦い思い出もある。「踏切で自動車と衝突した時、運転士は2階にいて、乗客が犠牲になると悪口を言われました」(生方氏)。もちろんそれは設計段階で織り込み済みだった。

ADVERTISEMENT

「前面に強力なダンパーを配置し、ガラスもメーカー2社に競争させて、安全かつ大きな面積のガラスをつくる技術を日本で成功させました」(同前)

 画期的な車両の導入に当たり、線路側の設備も変更したという。

「SEの運転台は通勤タイプの電車と比べると低い。一方、NSEは運転台が2階の高い位置にあるので、全線で信号機の灯の位置をチェックし、移設も行っています」(同前)

「わざわざ個別設計して、ゴミ箱を海側にしています」

 展示車を巡るときは、ぜひ、製造年を追って欲しい。

「SE車が出来たのが1957年。あれから64年、前面展望ガラスにしても、リクライニングシートにしても技術の進歩は驚くべきものがあります。制御機器や無線電話の電子化による技術の進歩に目が向きがちですが、カーペットや灯具の材質ひとつとっても60年を超える差は大きいものです」(同前)

 生方氏には最新型ロマンスカー、70000形(GSE:Graceful Super Express)の報道公開でもお目にかかった。

「ゴミ箱の位置を見ましたか。すべて海側(太平洋側)にあるでしょう。ほとんどの鉄道車両の内装は共通設計、つまり先頭車など車両の向きが反転すると内部レイアウトも反転する。それをわざわざ個別設計して、ゴミ箱を海側にしています。箱根湯本駅のプラットホームが山側にあるから。乗降する側にゴミ箱があると、そこで降車客が渋滞します。これを解決しているんですよ」と、後輩の仕事に満足そうだった。