撮影は、イレブンのランチ営業が終わったタイミングで行われた。
マスターはカウンターの中の小さな椅子に座って、私たちの撮影が終わるのをずっと待ってくれていた。
そのマスターに、幼い頃の豊島を憶えているかと尋ねると、「もちろん!」と力強く頷いて、大きな声で話し始めた。
マスター「よくお母さんと来てくれてましたよ! 30年くらい前なのかなぁ?」
「あ、いや、そんなに前では……」今年でようやく31歳の豊島が控え目に訂正するが、その言葉が聞こえていないマスターは「家にテレビが無かったんだよね?」と幼い頃の豊島から聞いたであろうことを確認していた。豊島も「そうでしたね」と懐かしそうに頷く。
それからマスターは、私たちにこんなことを教えてくれた。
マスター「よく、大人たちが一緒に写真を撮ってましたよ」
──写真?
マスター「『この子は絶対にタイトルを獲るから』って。私なんかには普通の子に見えたけど……強い人たちにはわかるんだねぇ。だから今のうちに一緒に写真を撮っておくんだと」
マスター「そんなんだから私も、この子はタイトルを獲るんだろうなぁと思って。そういう人たちは逆に、ダメな子のこともはっきり言うからね!」
──本当にタイトルを獲られましたけど、いかがですか?
マスター「うん……立派になったねぇ……」
撮影させてくれたことに改めて礼を言うと、「またいつでも言ってくださいよ!」と、マスターは何度もそう言って私たちを見送ってくれた。
このインタビューの後に発表されたが、イレブンは高槻への移転には同行しないことになった。
将来名人や竜王となるような少年少女がこの店を訪れることは、おそらくもう、ない。
しかしだからこそ……この店にとって豊島との記憶は、かけがえのないものとして輝き続けるのだろう。
今日、ここで写真を撮ることができてよかった。この店と一緒に、豊島を。
きっと豊島は、もっと強くなるから。
(続く)