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「ただ自分は、能力が限られている部分があるので。そういう人にも対抗できるようにしていきたいという思いでやっています」

『そういう人』。
 豊島が語り始めたのは、最強の棋士像に対して、自分がどう対抗していくかについてだった。
 つまり豊島は、自分がその最強の棋士になれるとは考えていない、ということになる。
 しかし……豊島は史上四人目の竜王名人だ。
 竜王と名人を同時に戴冠した人間は、豊島の他には谷川浩司・羽生善治・森内俊之しかいない。渡辺明すら、それを成し遂げてはいない。
 そして現在も、豊島は将棋界最高位タイトル『竜王』を保持している。あの羽生善治の挑戦を退けて。
 豊島を現在最強と評する者もいる。対戦成績で藤井聡太を圧倒し、渡辺明よりも若い豊島が、今後の将棋界で長く君臨する未来は当然あり得る。
 噛み合わないものを感じつつ、私は質問を重ねた。

──……『自分が最強の棋士になってやるぞ!』というのではなく、そこに対抗できるようにという意識でやっておられるのが、私には意外に思えます……。

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「具体的に言ったら、藤井二冠は自分よりも若いですし、終盤とかも明らかにメチャクチャすごいので」

「どっかの部分では……全ての部分で勝つ、というのは難しいと思いますけどね。あんまりイメージできない。それは」

「でも、何か一つでも上回れたら『ここで勝負していく』というイメージは、何となく掴めますけど」

──勝手なイメージで申し訳ないのですが……若い頃の豊島先生には、『どんな部分でも完璧にしなきゃいけない』という意識があったように思えるんです。その意識が強すぎたあまり、息切れしてしまったのかな……と。

「……あったかもしれないですね、それは」

──そういう部分が、次第に現実と折り合いを付けていくことを学んでいかれて、それが結果に繋がった。しかしその過程で、ご自身が最強の棋士ではないという意識もまた、強くなってしまった?

「そうですね。しかも電王戦に出て、コンピューターと戦ったことで、だんだんそうなっていったというか……やっぱりソフトと指して、自分の至らない点に気づいたというか」