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最強の棋士像【流れゆく水のように 豊島将之竜王・叡王インタビュー 第2章】

source : 提携メディア

genre : ライフ, 娯楽

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「……けどそれは、自分には難しいんだな……と思うようになりました」

──そうなんですか!?

「ん? え?」

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──豊島先生はむしろ、純粋に真理に近づいているというイメージが……ストイックにAIに向き合うのって、真理しか求めてない人の行動なのでは……?

「四段の頃は、『こうなったらこれが最善』というのが、ある程度わかると思っていたので。でもそれが全然、そんなレベルじゃなかったということですよね」

──将棋の深さを理解したということですか?

「将棋の深さもありますし……やっぱ自分が、全然わかってないんだなということが、わかったというか……」

──じゃあ豊島先生の中で、真理を探究している棋士というのは、どなたになるんです?

「ソフトが出てきてからはみんな、真理というよりも自分のレベルをちょっとでも上げるとか、ちょっとでも成績をよくするとか、そういう方向にシフトしてきていると感じていて……」

「そういう(真理を追究する)人もいるのかもしれませんけど。郷田先生(郷田真隆九段)とかは、そう……そういう、私とかとは違うんですかね? わからないですけど。想像でしかないですけど……」

「藤井二冠も、一手一手丁寧に考えていて、少しでも(真理に)近づこうとされているのかな……とか」

 

 豊島は気づいているだろうか?
 豊島が藤井について語るときは、少し表情が輝いて見える。それこそ、子供の頃に戻ったかのように。
 はっきりとは語らなかったが、豊島が『最強の棋士』と聞いて思い浮かべたのはきっと、藤井聡太のことなのだろう。
 自分にとっては難しいと思い知らされた、将棋の真理を探るという道。
 そこを堂々と進む藤井に対して、豊島は特別な感情を抱いているように見えた。
 おそらくそれは、対抗心や嫉妬といった感情ではなく、尊敬や憧れといった気持ちなのだろう。豊島の表情がそう語っていた。
 自分より10歳以上も若いライバルに対してそんな素直な気持ちを抱けるのが、豊島将之という棋士なのだ。
『抱朴』。
 意図せず選んだその言葉は、とてもよく豊島を表現していると思った。