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はたして藤井はどこまで高くから見ているのだろうか

 高野が藤井二冠を評した「性能の良いマシンが参戦すると聞き、フェラーリやベンツを想像していたら、ジェット機が来た」というコメントが有名になったが、はたして藤井はどこまで高くから見ているのだろうか。ジェット機どころかスペースシャトルで大気圏を超えているのだろうか。

 藤井は弱点は克服したとはいえ、まだ完璧ではない。三浦弘行九段の横歩取りに朝日オープンもB1順位戦も大苦戦した。豊島に勝ったのは持ち時間40分の朝日オープンだけで、長い持ち時間ではない。雁木も横歩も指さず、後手番で変化球を持ちあわせていない。

 常に「最強手」を選択するので1手のミスも許されない。深浦康市九段との王座戦では居玉で攻め続けるという極めて危険な手順を選んだ。優勢にすすめていたが、深浦の粘り強い指し回しに逆転負けを喫し連勝が19で止まり、王座挑戦が消えた。稲葉陽八段とのB1順位戦では、玉が不安定になる定跡を受けて立ち、新手を見せた。だが稲葉の研究手に時間を使わされ、終盤で最善手が指せず、順位戦の連勝が22で止まった。

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 しかし、この2局は、将棋の真理に近づきたいという志の高さが生んだ前向きな敗戦だ。藤井は18歳で、まだまだ成長の途中なのだ。これからもっと強くなることは確定している。

 楽しみでもあり恐ろしくもある。

渡辺明名人との棋聖戦五番勝負を展望してみよう

 棋聖戦は渡辺、王位戦は豊島という最強の挑戦者となった。全員複数タイトル保持という、漫画でも小説でもありえないような展開である。

棋聖戦挑戦者決定戦での渡辺明名人 写真提供:日本将棋連盟

 では、最後に棋聖戦の展望をしてみよう。

・先手の作戦は?

 渡辺は今年に入ってからすべての戦型を採用している。ただし名人戦では角換わりは採用していない。藤井は前述したように角換わりは半年以上採用していない。

・後手番で変化するか?

 渡辺は2020年のタイトル戦では本田奎五段との棋王戦第4局、豊島との名人戦第3局と5局で角道を止めて雁木模様にしている。名人戦第3局は序盤で失敗したが、残り2局は勝ち、棋王防衛、名人奪取につながった。しかし2020年8月の名人戦第5局以来、2手目△3四歩は指していない。

 今期の名人戦第5局も渡辺は2手目△8四歩で普通の角換わり模様だった。斎藤慎太郎八段が飛車先を保留したので変化したわけで、むしろ斎藤側が雁木を誘っていた。

 藤井は角換わりを半年以上指していないし、さらに飛車先保留型となると2020年3月の稲葉陽八段との王位リーグ戦以来採用していない。また、渡辺は藤井との初対戦で先手雁木を採用したが敗れている。

 藤井は後手ではすべて2手目△8四歩で、変化したことは過去1局もない。ただし先手矢倉に対しては、2年近く封印していた後手急戦を深浦戦、叡王戦の行方尚史九段戦で連取している。

・展開は?

 渡辺は中盤まで互角だと厳しいと考えているはず。したがって事前研究で差をつけ、持ち時間も多く残して終盤戦に備えるだろう。そのためにもいかに研究範囲に持ち込むかが勝負だ。安全な玉形にして攻めに専念できる展開が理想だ。

 藤井は唯一の敗戦となった棋聖戦第3局のように研究でリードをされたくない。なので戦型選択は委ねながら地力が出る展開を望むはず。ということで戦型予想は矢倉と相掛かりで後手は追従する。ただし、渡辺が矢倉を選択したときは藤井が急戦に出る可能性が高い、と見る。

筆者と藤井聡太二冠 ©勝又清和

 棋聖戦第1局は6月6日に、王位戦第1局は6月29日に開幕する。 棋聖戦五番勝負と王位戦七番勝負は、将棋ファンならば絶対に見逃してはならない。

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