「なんか怖いな、この人」が第一印象
そんな古賀と山縣は不思議とウマが合った。山縣が苦笑いしながら振り返る。
「初めて見たときは、すごく威圧感を醸し出している人ってイメージだったんですけどね」
高校1年の時、初めて古賀を見た。国体のテレビ中継だった。画面の中の古賀はゴール をすると、雄叫びをあげながらユニフォームを脱ぎ捨てていた。
「恥ずかしくないのかな。なんか怖いな、この人」
それが第一印象だった。
月日が流れ、山縣が慶大をAO入試で受験するために広島から上京し、競走部の練習に参加すると、そこに2年生部員になっていた古賀がいた。期待のルーキーは先輩達に囲まれ、雑談する中で、「教科は何が好きなの?」と尋ねられた。慶大は一般入試で入部した部員も少なくない。山縣は何と答えようか迷っていた。
「体育とか図工って言ったら、馬鹿っぽいかなぁ」
格好付けて本心と違う教科を口に出そうとした、その瞬間。いきなり見透かしたように 横から古賀が言った。
「体育だよな、体育!」
目を合わせて2人は笑い合った。
古賀さんは「何かやってくれそうな雰囲気がある」
「空手」というつながりもあった。
山縣は大学に入学すると、空手の道場に月1回、通うようになっていた。
「18歳ながらに、武道の精神は大事だと思っていたんです。昔は刀と刀を持って向き合っていましたよね。現代のスポーツでも『負けたら死ぬ』ぐらいの覚悟を持つことで、1つ差が生まれるんじゃないかと。守りたいものがあった時に、風邪をひいていましたとか、体調が悪いですとか言い訳にならない。向かい風が強いとか、初めての五輪だからとか、勝負の結果に対して、何の言い訳にもならない。それまでの自分を振り返ると、少し言い訳していた所があったので、そういう覚悟を持って競技をしたいなと思っていました」
同じ空手の先生のもとに古賀も通っていた。古賀の方は山縣のように実戦ではなく、その先生が「武道の精神を一般の生活にどう生かすか」というテーマで開催しているセミナーだった。
在学中から、武道の理念について幾度となく会話を交わしてきた2人。山縣は「また価値観を共有したいな」と思っていた。
「古賀さんはすごく話しやすい。それと、何かやってくれそうな雰囲気がある」
先の見えない復活ロードの伴走者として、型破りな先輩がコーチに付いてくれることは 心強かった。