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「繁華街で気弱な若者に強引に服を売る」

 2019年8月、私は東京都台東区上野にいた。理由はナイジェリア人不良グループのメンバーと接触するためであった。あらかじめ警視庁関係者から、ナイジェリア人不良グループのメンバーたちが、上野のアメ横(アメヤ横丁)にいることを聞いていたからだ。

「ナイジェリア人不良グループの代表的な仕事の1つが、繁華街で気の弱そうな日本の若者に声をかけて強引に服を売ることだ。狭いテナントでやれば家賃は少なくて済むし、劣悪な服を仕入れれば原価は格安だ。日本語が下手でも押しが強ければできるし、楽な商売だよ」

 どこの店舗か分からないので、あてもなくアメ横付近を歩いた。終戦直後の闇市形態の発展型として残る、数少ない貴重な商店街である。アメ横の魅力の1つは何といってもダミ声での閉店セールを装った叩き売りだろう。

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 明らかにハイブランドを真似た粗悪な偽ブランド品も数多く低価格で売っていて、警察も取り締まらずに放置している。そうした良くも悪くも無法地帯のアメ横に、時代の流れと共に外国人が経営する店が増えていく。その中に、ナイジェリア人不良グループもいるというわけだ。

 私がアメ横を徘徊していると、カジュアルなストリート系ファッションの店舗前に黒人が立っている。こちらを見つめていて、私と目が合うとニヤリと笑って近付いてきた。

アメ横で若者に強引に服を売るナイジェリア人グループがいたという(写真はイメージ) ©iStock.com

「ヘイ! マイブラザー! 見ていってくれよー!」

 肩を叩かれて握手をされる。かなり強い力だ。背は私よりだいぶ大きく、180センチはあるだろう。金のチェーンネックレスをして、派手なラメ色のプリントがされたTシャツに、ダメージジーンズを履いている。私は引っかかってみることにした。

「女とセックスできる服ある」

「マイブラザー。これでセックスできる。1万円」

 黒人は肩を組んできた。強引に店の中に連れていかれる。店内に入ると、柔軟剤のような香りがした。狭いスペースなのにもかかわらず、パーカーやジーパンが吊るされていて、棚にはTシャツが畳んで置かれている。歩くと服に触れてしまうぐらいで、これでもかというぐらい店内には様々な衣類が販売されている。私は不審な点に気が付いた。どの商品にも値札がつけられていない。

「マイブラザー。これでセックスできる。1万円」

 黒人は意味不明なロゴの入った白いTシャツを見せてきた。私が何も答えていないのに、ビニール袋に入れ始める。高いし、私は選んでもいない。どうせ買うなら、着る服が欲しい。

「黒い色のシャツが欲しいです」

 私が言うと黒人は頷いてまかせておけというような表情をした。

「どう、これ」

黒人はバスケットボール選手が着ているような、数字が書かれた赤いシャツを出してきた。ビニール袋に入れ始める。私はヒップホップをやっていないし、ラッパーでもない。

「ちょっと待ってください」

 私は黒人を静止する。店内を見ると、ドクロのプリントがカッコ良い、アメカジファッションのブランド“バンソン”の黒い半袖シャツが吊るされていた。私はそれを指差した。

「オッケー。1万2000円。セックスできる」