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「『すべて勝ち星で九段』の記録は、将棋界に残せるもの」

 もちろん、勝ち星規定で昇段した棋士がその後活躍しないということはない。例えば、森内俊之九段の五段昇段と佐藤康光九段の六段昇段は、いずれも勝ち星規定によるものである。この二人のその後の活躍については今更触れるまでもない。

「会長対決」となった将棋連盟会長・佐藤康光九段ー棋士会会長・中村修九段の対局 ©️相崎修司

 そして、五段から九段まですべての昇段を勝ち星規定で達成した棋士がいる。阿部隆九段だ。竜王戦ではあと1勝でタイトルというところまで迫り、順位戦では最高クラスのA級まで昇った。棋戦優勝も2回と、紛れもない一流棋士である。

 阿部九段に話を聞いてみた。

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「格好つけたことをいうと、若い時は『将来タイトルを獲れる、そういう将棋のつくり』を目指していました。ひたすら上だけを目指して、勝ち星そのものには無頓着でしたね。600勝の時もそれほど意識はなかったです。800勝の時は自身の年齢のこともあって、ひとつの目標ではありましたけど。

『すべて勝ち星で九段』の記録は、将棋界に残せるものだと思っています。僕と、中田さん(宏樹八段。すべて勝ち星規定で八段まで上がり、九段まで50勝を切っている)くらいでしょうか。これまで一生懸命頑張ってきたご褒美かなと」

阿部隆九段 ©️諏訪景子

 そしてこれからについては、

「正直、どこまでできるかわからないですね。年間の成績で5割を切るのが耐えられないんです。そうなったらメンタルが持たず、その結果として体力も持たないのではないかと。こればかりは実際にそうなったら考えますが。負けた時にへこまず、悔しくならなくなったらダメでしょうね。今は一局一局を積み重ねるだけです」

 と語った。 

「一局一局を積み重ねる」は阿部九段に限らず、すべての棋士の根本だろう。それを長年にわたって実現し続けることができた棋士のみが、一流と呼ばれる域に到達するのではないかと思う。

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