痩せた体型こそ魅力的という従来の美の定義に追従するのではなく、個々人の体型の多様性を認めようという「ボディポジティブ」の概念が拡がっている。一方で、身体・精神的に悪影響があっても「やせたい」と思ってしまう人も、未だに少なくない。
自分にとっての理想の体型を目指すことが、おしなべて悪いこととは言えないが、過度な減量によって心身に不調をきたしてしまっては元も子もない。それでも、「やせるべきだ」と考えてしまう呪縛はいったいなぜ生まれてしまうのだろう。ここでは、医師の永田利彦氏の著書『ダイエットをしたら太ります。 最新医学データが示す不都合な真実』(光文社新書)の一部を抜粋。真に穏やかで心豊かな毎日を手に入れるための考え方について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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私たちがダイエットにとらわれてしまう理由
ダイエットの難しいところは、よくないとわかっていても、「やせるべきだ」という呪縛からなかなか抜け出せないところです。摂食障害の患者さんは、病的にやせているのに、待合室で自分よりもやせた(非常に具合が悪そうな)患者さんを見ると、うらやましがります。例えば体重30キロぐらいと、すでにガリガリにやせているのに、「私はあの人より太っている!」と言うのです。
そこで最後に、私たちはいったいなぜ、こんなにも強くダイエットにとらわれてしまうのかを、考えてみましょう。そのヒントは、摂食障害の患者さんにあります。
ダイエットをしても摂食障害になる人とならない人がいますが、摂食障害になる患者さんには、生物学的な脆弱性(もろさ)と心理学的な脆弱性があるとされています。生物学的な脆弱性とは、神経伝達物質の分泌量や特定の遺伝子との関連などをさしますが、ヒントになるのは心理学的な脆弱性の一つ、「臨床的完全主義」です。
「臨床的完全主義」とは、「負の側面があるにもかかわらず、より高い目標を自らに課し、それが自己の評価に深く関連している」と学問的に定義されます。具体的には、「やせすぎると心身に悪影響があるにもかかわらず、さらにやせることを目標にして、その目標が達成できないと落ち込む」といった状態です。