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歳を重ねてくるにつれて、稼げなくなる恐怖

 私は一旦その話を打ち切り、彼女が昨年SMクラブを辞めようと思い立った理由について尋ねた。

「うーん、やっぱ23、4って歳を重ねてくるにつれて、そのうち稼げなくなるんだろうなあ~、みたいな恐怖が……」

 カオルは「そのうち稼げなくなるんだろうなあ~」と口にするとき、恐怖を実感していることを伝えるように、怯えたような震える声色を使った。

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「だから、慣らさないといけないって考えたわけ?」

「そうですね。ふつうの生活に戻らなきゃな、って思って……あと、SMがキツイってのもあったし」

「やっぱりキツかった?」

 彼女は黙って頷く。私は訊く。

「あと、シホさんとのこととかも理由としてあったりした?」

「まあ、そうですねえ。互いに、そろそろ辞めたほうがいいよねえ、とかは話しました。シホさんも私と同じだった前の会社を、私が辞めた2カ月後に辞めて、それから去年の11月くらいに再就職して……。私の勤務先と同じくらいの規模の、電気工事をやる会社で事務をやってますね」

「あの、まだ付き合いは続いてるんだよね?」

「はい。続いてます」

「最近はどういう付き合い方なのかな?」

「職場は彼女も同じ××(地名)にあるんで、朝とか夜も会えたら会って、一緒に帰るっていうか……」

シホさんとの交際は…

 シホさんの職場があるのは、カオルの会社と同じ駅とのこと。カオルが母と暮らす自宅と、シホさんの一人暮らしの部屋は、ここからはそう遠くない地域にあり、両者の間は二駅の距離だという。

「大学時代から交際が続いてるけど、なにか変わってきたことってある?」

「そうですねえ、彼女と付き合って、男の子とは付き合えないなって思っちゃいましたね。話してても、やっぱ彼女のほうが話が合うし、一緒にいて楽しいし……」

「向こうの部屋にはどれくらいの割合で行ってるの?」

「最近は全然行ってないですねえ。そういえば3カ月くらい行ってない。なんか毎日のように会ってるんで……。それ以外に遊ぶとしたら土日とかになるんですけど、彼女って吹奏楽をやってて、演奏会の前とかは練習が夜遅くまであるんで、泊まりに行けないんです」

 ここで私はカオルに対して、「シホさんの顔を知らないから、なんかイメージが湧かないんだけど、写真とか持ってない?」と切り出した。すぐにスマホの画面をスクロールする彼女。「こんな感じです」とカオルが見せてくれたのは、彼女と背丈が同じくらいの、黒髪ショートでセルフレームの眼鏡をかけた内気そうな女の子だ。化粧っ気もほとんどなく、その点ではカオルと同じ雰囲気を持っている。