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 退会しようと決意したのも記録係をしている時。なんとか仕事を終え、母に「奨励会を辞める」と電話しました。そのときは自立して一人暮らしをしていましたが、母はずっと私の心配をしていました。母は「桃子が決めた道なら」と言ってくれました。女流棋士申請をして(※女性奨励会員は申請をすることで女流棋士の資格を得る)、新しいスタートを切ることになりましたけれど、退会したときは、どん底でしたね。自分を保てる精一杯まで頑張ったと思う一方、私が四段になるために応援して力を貸してくださった方に申し訳ない気持ちが残っています。

努力しきれなかったと思っています

――奨励会時代、島朗九段、鈴木大介九段、先崎学九段、飯島栄治八段、飯塚祐紀七段など棋士にVSや研究会で教わることが多く、先崎九段は加藤先生のことを「きっと四段になる」と週刊誌の連載に書いていたのを読んだことがあります。力を貸してくれたというのは、そういう方のことですか。

加藤 師匠の安恵八段や永瀬王座など兄弟子はもちろんですが、名前を挙げられた先生方にもたくさん将棋を教えていただきました。永瀬さんの紹介で先生への人脈が広がっていったことも多かったです。教えていただく機会が多く、私は恵まれていました。地元・静岡のファンの方にも応援していただきました。それなのに、生かせませんでした。努力しきれなかったと思っています。そして、亡くなった父への一番の親孝行は四段になることだったのに、その道を断ってしまったという思いもあります。

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――現在奨励会に女性は2人だけです。女性奨励会員の数が増えないのはどうしてだと思われますか。

加藤 どうしてでしょうね。増えてほしいと思っているのですが……。1つは、女流棋戦も対局以外のお仕事も増えて、収入の面でも女流棋士が魅力あるお仕事になったことはあるのかな。女流棋士のほうがずっと早くなることができますから。

最後の対局で勝てる体力が必要

――これから奨励会に入りたいと考える女の子にアドバイスはありますか。

加藤 初段までしかいかなかったので、偉そうなことは言えません。体力は大事かな。3局の場合、同じ1勝2敗でも〇××と××〇では全然違います。後者のほうが次の例会に星がつながるから。最後の対局を勝てるようにするためには、普段からたくさん指して将棋の体力をつける必要があります。格上の人に頭を下げ「教えて下さい」と指してもらうことが大切。私はBが付く(※2勝8敗以下の成績でBが付き、3勝3敗以上の星を出さないと戻れない。戻れないままBが2回続くと降級)ことも多かったのですが、絶望的な気持ちになります。そのままだとまた負けてしまうので、気持ちの切り替えも大事です。

――女性の四段がまだ誕生していないのは体力差も要因でしょうか。

加藤 体力はそう思いますね。私は初段の頃、2局指すと(※有段者は1日2局、級位者は3局)立ち上がれないことがありました。奨励会は情報戦の面もあって「〇〇1級は最近××戦法の研究をしている」といった情報を知っているかどうかで勝敗が分かれることもあります。仲間がたくさんいて、上手く情報交換したほうが有利な面も。女子は仲間作りが男子同士より難しいかもしれません。また、私の頃はそうでもありませんでしたけれど、最近はソフトを上手く使って勉強する力も必須です。大変だけれど、女の子にも頑張ってほしいですね。