9月下旬に開幕する大成建設杯清麗戦五番勝負。挑戦者は女流タイトル戦の常連、加藤桃子女流三段だ。小学校6年生、11歳のときから24歳まで12年半奨励会に在籍しており、これは女性奨励会員では最長だ。奨励会員の立場で女流タイトル8期。華々しい実績を積みながら、奨励会員で修行中の身という立場もずっと大切にしてきた。
女流棋士になって実はまだ2年という加藤女流三段に、高校将棋部の熱血顧問で中2のとき急逝した父のこと、有段者で将棋界にも詳しくサポートを続けてくれた母のこと、奨励会での長い戦いなど、これまでの歩みについて聞いてみた。
温泉が好きなので、あるとテンションが上がります
――加藤先生は女流タイトル獲得8期、登場16期と経験が豊富です。たくさんのホテルや料亭で対局されてきました。特に印象的だった宿やおもてなしを教えてください。
加藤 銀波荘(愛知県)に陣屋(神奈川県)、どこも素敵なところですが、常磐ホテル(山梨県)の対局者に1人ずついた「お付きの方」は印象に残っています。執事みたいに何でもしてくださいました。
もうなくなってしまった料亭の芝苑(大阪)では、床の間のお花が朝はつぼみだったのに終局の頃に咲くと聞いて、終わって見たら綺麗に咲いていました。時間を計算してあるそうです。それに、対局が終わって大盤解説場に向かうとき、草履に足がスッと入るように、鼻緒を立てるようにして並べてくれて、細やかな心遣いに感動しました。あとは、温泉が好きなので、あるとテンションが上がります。
――対局前、対局後と入るのですか。
加藤 検分までに時間があれば、宿に到着したらすぐに1回入ります。
――入ってしまうと、お化粧をし直す必要があるかと……。
加藤 メイクはいつも3分なので大丈夫です(笑)。メイクやコスメに詳しい女流棋士もいるのですが、私はあまり関心がなくて。人前に出たり、女流棋戦で写真を撮られる時にメイクするくらいで、奨励会の例会では、ずっとすっぴんでした。
朝ごはんをしっかり食べて着付けをお願いするのが加藤流
――コロナ禍で、対局時のおやつが別室に運ばれるようになりましたが、食べられますか。
加藤 糖分補給はしたいのですが、女流タイトル戦の場合、3時のおやつの時間はちょうど終盤で、別室に行って食べる余裕はありません。終わってからいただくことが多いです。
――和服を着ることもあります。汚さないように考えてメニューを選んだりはしますか。また、女性の場合は袴をある程度締めるので、食べるとき苦しくなることはありませんか。
加藤 和服でも洋服でも、布のエプロンをお願いして、それを使って食べています。袴のときは、まず朝ごはんをしっかり食べてお腹が膨らんだところで、着付けをお願いするのが加藤流です。そうすると、昼にはご飯が入るくらいには緩くなります(笑)。
――さて、子どもの頃のことを教えてください。お父さまは奨励会経験があり、お母さまは当時の女性としては珍しい有段者とうかがいました。ご両親から将棋を教わったのですか。
加藤 母は静岡県教育委員会の依頼で「静岡ふじのくにゆうゆうくらぶ」という将棋教室の講師を務めていました。私も5歳のときから、その教室の初心者のクラスに参加するようになりました。家では父が戦法など技術的なことを教えてくれました。