不利になっても簡単に土俵を割らない強さ
――米長会長の方針では、最初に奨励会初段に上がった女性に報奨金を出すということもありました(特例で5勝5敗の指し分けで昇級できた蛸島彰子女流六段を除くと、それまで奨励会で初段に上がった女性はいなかった)。
加藤 ありましたね。沙恵ちゃんが最初に初段にリーチをかけたものの崩れてしまい、里見さんが初段になって報奨金をもらいました。米長会長は女性奨励会員に火をつけ、やる気はアップしました。里見さんより後でしたが、私も19歳で初段に上がることができました。
――後になって里見女流四冠、西山女流三冠は奨励会で三段に上がります。先を越されたことへの焦りはありましたか。
加藤 女性に先を越されてどうということはなかったけれど、自分がなかなか上がれないのは悔しかった。西山さんは(高校卒業後)二段のときに関東に移籍しました。私の二段昇段がかかった一番の相手は西山さんでしたが、蹴り落とされました。それは相当こたえました。
――今は、里見女流四冠、西山女流三冠と女流棋戦で戦っています。女流棋界で2強と言われる2人に三段リーグを経験した力を感じることはありますか。
加藤 不利になっても簡単に土俵を割らない強さですかね。中終盤で逆転の目を作るのがうまい、相手が間違えやすいように指してくるなというのはあります。
師匠にはすごく感謝している
――初段になって2年、21歳のとき黒星が続き、1級に降級します。21歳で1級の場合、半年以内に初段に復帰しなければ退会となる規定です。このときのことを教えてください。
加藤 もう絶望でした。女流タイトルは持っていても、奨励会員として四段になることしか考えないでやってきたから、本当に辛い思いをしました。心療内科に行ったら「将棋をやめなさい」と言われて。心療内科の先生はそう言いますよね。ストレスの原因を除かないといけないわけですから。でも「やめるなんてできるわけない」と思いました。逆に「頑張ろう」と吹っ切れました。
師匠の安恵照剛八段も、それまでは「女流棋士になったら」と言うこともあったのに、そのときは「桃子ちゃんなら四段になれる」と励ましてくれて、救われました。5カ月で初段に復帰して退会は免れ、師匠にはすごく感謝しています。
――それから2年後、24歳、初段で奨励会を退会します。年齢制限の26歳まで2年近く残していましたが、体の不調もあり退会を決意したと別のインタビューで答えられていました。
加藤 奨励会には12年半いました。後から入ってきた人に次々抜かされるわけですが、悔しさが麻痺するようになっていました。眠れなくなるとか体の不調も出て、それだけではなくミスもするように。記録係をしていて対局者の指し手ではなく、自分の読み筋を書いてしまったり。精神的に追い込まれていてヤバい、大きなミスで迷惑をかけてしまうのではないかと怖くなりました。このままでは将棋を嫌いになってしまうとも。