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dlshogiとやねうら王

 ……山岡が意識し続けてきた、やねうら王。
 その存在は山岡以外の開発者たちにとっても、大きすぎる壁として在った。
 電竜戦プロジェクトの理事長であり、カツ丼将棋の開発者である松本は、電王戦が開催されていた頃を振り返って、寂しそうにこう語る。

『やねうら王の存在が大きすぎて、みんないなくなってしまった。あの美しいソースコードを読むだけで自分のプログラミングの腕が上がったように感じる』

 dlshogiが登場するまで、実質的に将棋ソフトの中で1強となっていた、やねうら王。
 その開発者である磯崎は、dlshogiがここまで強くなっていることをどう受け止めているのだろう?

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「第5回電王戦当時は……独創性を持っていれば持っているほどキツかった時代だと思いますね」

 山岡が初めて出場した大会のことを、磯崎はこんな言葉で振り返る。

「独自性を出してしまったら、やねうら王に勝てなくなっちゃうので。だから独自性を捨てた上で、やねうら王を深く理解して『ここがアカンやん!』って改良していって……そういう人たちが残っていった感じです」

「まず、やねうら王をそのまま使うことに対して、プライドを捨てないといけない部分もあるでしょうし。さらに独自性かつ、意味のある改造をしなくてはいけない」

「そもそもやねうら王を理解できる時点で賢いんだと思います。私、他人のソースであの規模のものだと、理解するのしんどいかなって思うんです。自分の書いたものだから理解できてますけど(笑)」

 山岡の抱いていた『絶対にやねうら王の技術を自分のソフトに加えたくない』という、信念。
 そのことを伝えると、磯崎は目を閉じて深く息を吐いてから、こう言った。

「……そういう人が残っていくんだと思います。時代に。それくらいの気骨ある……強い意志を持っている人が残っていくんだと思います」

「私自身も、やねうら王ではないソフトが出てくることを祈っているんです」