1ページ目から読む
8/13ページ目

「局面にもよりますが、NNUE系に比べて絞って探索はしていますね。ポリシーネットワークというのが、『どこが有望か』というのを予測します。それが絞られていれば狭く深く思考しますし、絞られていなければ広く浅くなります」

 予測した手が上手く絞れない局面というのは、序盤・中盤・終盤だと、どこになるのだろう?

「ええと……そこは調べていないので、わからないです。ただ……」

ADVERTISEMENT

「ディープラーニング系のソフトの特徴として、合法手が多い局面では読みが浅くなる傾向があります。終盤は持ち駒があったりするため、序盤と比べて合法手が多い。そのため、NNUE系と比べても読みが浅くなる傾向がある」

 そのことが、ディープラーニング系が終盤に弱いと言われることと関係しているのだろうか?

「あると思いますね」

 後手番ながら攻めるdlshogiと、受ける水匠。
 この72手目を境に、dlshogiは自身が若干有利だと主張し始める。

「何か、水匠の玉が裸になったとか解説されていて。それは私にも見ればわかるので(笑)」

 山岡には4九銀という手の善し悪しはさっぱりわからない。それでも棋士たちが絶賛しているのであれば、悪い展開ではないのだろう。
 ただ、dlshogiの勝ちパターンからは外れているのが気になる……。

 誰もが固唾を飲んで見守る中、水匠とdlshogiは千日手の筋を読み始める。
 運営を担当する開発者たちは色めき立った。特に、電竜戦プロジェクトの理事長である『カツ丼』こと松本浩志は焦った。「1局目がバグで2局目が千日手になったら目も当てられない」

 しかしそれは杞憂に終わる。
 119手目。水匠は飛車を横に振ると、千日手を打開した。
 山岡の心臓と先手の評価値が、大きく跳ねた。

「コンピュータ同士の対局なので、自分が動揺しても仕方ないんですけど(苦笑)」

 水匠が千日手を打開した、2九飛
 この手を指された瞬間、山岡は敗北を悟った。今回のイベントを通じて山岡が最も心を動かされた瞬間だった。