「局面にもよりますが、NNUE系に比べて絞って探索はしていますね。ポリシーネットワークというのが、『どこが有望か』というのを予測します。それが絞られていれば狭く深く思考しますし、絞られていなければ広く浅くなります」
予測した手が上手く絞れない局面というのは、序盤・中盤・終盤だと、どこになるのだろう?
「ええと……そこは調べていないので、わからないです。ただ……」
「ディープラーニング系のソフトの特徴として、合法手が多い局面では読みが浅くなる傾向があります。終盤は持ち駒があったりするため、序盤と比べて合法手が多い。そのため、NNUE系と比べても読みが浅くなる傾向がある」
そのことが、ディープラーニング系が終盤に弱いと言われることと関係しているのだろうか?
「あると思いますね」
後手番ながら攻めるdlshogiと、受ける水匠。
この72手目を境に、dlshogiは自身が若干有利だと主張し始める。
「何か、水匠の玉が裸になったとか解説されていて。それは私にも見ればわかるので(笑)」
山岡には4九銀という手の善し悪しはさっぱりわからない。それでも棋士たちが絶賛しているのであれば、悪い展開ではないのだろう。
ただ、dlshogiの勝ちパターンからは外れているのが気になる……。
誰もが固唾を飲んで見守る中、水匠とdlshogiは千日手の筋を読み始める。
運営を担当する開発者たちは色めき立った。特に、電竜戦プロジェクトの理事長である『カツ丼』こと松本浩志は焦った。「1局目がバグで2局目が千日手になったら目も当てられない」
しかしそれは杞憂に終わる。
119手目。水匠は飛車を横に振ると、千日手を打開した。
山岡の心臓と先手の評価値が、大きく跳ねた。
「コンピュータ同士の対局なので、自分が動揺しても仕方ないんですけど(苦笑)」
水匠が千日手を打開した、2九飛。
この手を指された瞬間、山岡は敗北を悟った。今回のイベントを通じて山岡が最も心を動かされた瞬間だった。