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最強CPU将棋ソフト『水匠』VS最強GPU将棋ソフト『dlshogi』長時間マッチ観戦記 第二譜『dlshogi』山岡忠夫の信念

source : 提携メディア

genre : ライフ, 娯楽

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 当時はまだ山岡も実験的な取り組みをしている段階で、同じような発想で取り組んでいた人々も、数人ながら存在したという。

「最初に戦わせた相手は『レサ改(Lesserkai)』というソフトです。『将棋所』というGUIに付属しているソフトなんですが、それにも勝てなかったですね。だから、どの辺りに課題があるのかを分析していって……」

「そうやって作っていたら、そこそこ強いものができて。『じゃあ大会に出してみるか』と思って出したら、モチベーションが上がって、どんどん強くしていって……という感じですね」

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 山岡が辿った道は、多くの将棋ソフト開発者たちが辿ったのと同じ道のように見える。
 だが、ディープラーニングという技術を使った革新的なソフトである以上、その道は平坦ではなかった。

「Bonanza以来の将棋ソフトとは、強くしていく方法が違うんです。ではAlphaGoと同じかというと……囲碁で用いられているモンテカルロ法(シミュレーションや数値計算を乱数を用いて行う手法の総称)というのは、将棋では使えないというのが定説だったんです」

「しかし私は、ディープラーニングを活用するにはそれしかないと思いました。それでやってみたら……意外にも上手くいったんです! これは学術系の人たちからも反応がありました。モンテカルロ法が将棋でも有効だと示したのは、おそらく自分が初めてだったと思います」

 Googleが将棋も指せるソフトAlphaZeroを発表するより前に、山岡は自らの直感に従って開発を続け、成果を出していた。
 個人でも、超巨大企業よりも先に、答えに辿り着くことができる。この経験は山岡の信念をさらに強固なものにした。
 しかし……CPUを使うNNUE系の将棋ソフトは、強さでは遙か先を行っていた。

「初めて出た大会は2017年の第5回電王トーナメントですね。序盤はそこそこ指せていたんですが……」

 結果は、一次予選落ち。
 終盤、詰ましに行かねばならないところで、dlshogiはその詰みを読もうとしてくれなかった。