「決勝に残ったソフトが全部、やねうら王のライブラリだったんです。これは……面白くないな、と」
優勝したのも本家のやねうら王であり、dlshogiは二次予選で4勝5敗。強くなってはいるが、決勝へは進めないままだった。
山岡にとって、将棋ソフト開発における最大の壁。
それがやねうら王だった。
「ライブラリの中で最強のソフトを倒したいというよりも……とにかく、やねうら王です。自分は絶対に、やねうら王の技術をdlshogiの中に加えたくなかった」
自分の直感に従い、独自の技術を磨くことに拘る山岡にとって、巨人の肩に乗って強くしていくことに何の魅力も感じなかった。
「私も合法手生成のためにライブラリとしてAperyを使っていますが、そこは敢えて……やねうら王は使いたくないと思って(笑)」
「dlshogiは全然違う手法を使っているんです。なのにそこでやねうら王を使ってしまったら、派生品のようになってしまう。それが嫌だった。全く新しい技術だけで勝ちたかったんです。それを示したかった」
「誰も信じていないことを自分だけが信じているということが、私のモチベーションになっているんです」
孤高を貫く山岡だったが、理解者がいなかったわけではない。
チームを組む加納邦彦は山岡に影響されて将棋ソフト開発を始め、dlshogiを元に独自の改良を重ねていった。
そして加納が開発した『GCT』は、昨年11月に行われた第1回電竜戦で、ディープラーニング系のソフトとして史上初めて優勝を果たす。
ディープラーニング系を飛躍的に強くした加納の手法は後述するが、山岡にとってもGCTの躍進で得たものは大きかった。
「教師の『質』が大事だということ。そこに気づきがありました。それを変えたら一気に強くなった感じですね」
第1回電竜戦後、改良されたdlshogiは将棋ソフト同士の対局場であるfloodgateでトップに立つ。
レーティングは4745。驚異的な強さだった。