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「今後、新しいモデルを公開するたびに、それがプロの将棋界に影響を与えてしまうというのは……どうすればいいのか、正解は、自分にはわからないです……」

 参考になるのは、囲碁の世界における中国。
 AlphaGoからディープラーニング系として発展し、開発に大きなGPUリソースを必要とする囲碁ソフトは、企業の力によって強くなっていった。
 そしてトップの強さを持つソフトはトップ棋士しか使うことができないため、棋士の実力の差は広がっていく傾向にある。  今後、将棋ソフトもそうなっていくのだろうか?

「そうですね」

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 山岡は頷いた。今は自身も、将棋アプリを開発・運営する企業に勤めている。

 1つ、疑問が残る。
 大企業が成し遂げたことを個人の力でも実現できることを示す。それが山岡の信念だったはずだ。圧倒的な集団の力に対し、個人で戦いを挑み、勝利する。そこに価値を見出すからこそ、山岡は孤独な戦いを続けることができたはず……。

 しかし今回の長時間マッチで、山岡は所属企業であるHEROZのGPUを使用した。
 これまでの信念と反する行動なのではないか?

「それは……『PAL』の存在がありました」

 dlshogiと同じくディープラーニングの技術を使って作られた将棋ソフトであるPALの開発者は、山岡と同じくHEROZに所属する山口祐。
 ディープラーニングが主流となっている囲碁ソフトで結果を出し、また産総研の大型クラウドを使用して開発を行った経験も有する。
 PALはNHK将棋トーナメントで評価用ソフトに採用されたり、永世名人資格者である森内俊之九段のYouTube チャンネルとコラボをするなど、華々しい。

「PALはかなりリソースを使って作られています。私はまだ大会で1位になったことがないので、一度はトップに立ちたいという思いがある」

「私も山口さんも、一緒に競い合って……というような性格じゃないので、お互い秘密にしながら作ってる感じなんですけど(笑)」