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「5月の選手権で以前のモデルを捨て、ブロック数を10から15に上げるという変更をしました。そこでまた1から学習をしています」

「ブロック数を上げることで精度は上がりますが、読む速度は落ちてしまう。ただそこはGPUの性能にもよります。一世代前のV100というGPUだと探索速度は落ちてしまうんですが、A100という最新のGPUであれば15ブロックでも10ブロックと変わらず実行できるので」

「だったら15ブロックのほうが断然強くなります」

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 山岡は、自分の信念を貫くことで、やねうら王を超えることを目標としてきた。
 そしてようやくその手応えを得たのだ。
 この長時間マッチで勝利できれば、山岡の中にある確信は、山岡だけのものではなくなる。
 それがこんな、バグによるものであってはならない。

「先手では勝てるだろうと思っていました。だから勝負は後手番の時です。ここで勝って、全勝利したかった」

勝負の後手番。163手に及ぶ対局の結末は

 第2局。先手の水匠は、dlshogiと同じように角道を開けた。
 第1局でバグによるトラブルがあったことから急遽、第3局まで行われることとなったため、持ち時間は当初の90分から60分へと変更されていた(共に1手ごと15秒加算)。

「事前のテストでは、90分15秒加算でやってみてメモリの使用は850ギガほどでした。用意したメモリは2テラのものなので、まあ大丈夫だろうと」

 ディープラーニング系は読んだ局面を全て記憶しておく必要があるため、メモリの使用量が莫大になる。そのため読ませすぎると対局中にマシンがストップしてしまうトラブルが発生しかねない。
 やねうら王はメモリを使いすぎるとバグが起こるが、dlshogiもメモリが唯一の不安材料だった。
 だが時間を短くしたことで、その不安は小さくなった。今度はバグに邪魔されることなく、お互いに全力で戦うことができる

 戦型は角換わり早繰り銀に進んだ。
 角換わりは千日手になりやすい戦型だ。
 先手の水匠は序盤から中盤にかけてところどころ千日手を読むような評価を付けるが、dlshogiは千日手は読まず、わずかながら先手(水匠)が良いと評価していた。