「フラク」とは「フラクション」。当時はやった用語で組織の構成員のこと。「細胞」とも呼ばれた。会社側の狙いが、共産党員とシンパの排除、そして、既に1年間の有効期間を過ぎている団体協約の改定にあったことが分かる。記事は続く。
「会社側代弁者は『本当の目的は、これを機会に東宝から赤を追放することだ』と語っており、伊藤委員長以下200名の共産党員及び300名のシンパによって牛耳られていると伝えられる東宝砧撮影所が“赤いハリウッド”に呼応して日本映画界も“反共旋風”の渦中に立たされたわけだ」
「炎の男」については「来なかったのは軍艦だけ」の座談会で伊藤武郎が興味深い話をしている。「(19)49年7月に変死した『下山事件』の下山(定則・国鉄)総裁が乗り気になって」「準備がすっかり出来ていた。そこへ渡辺が、それをやめてくれという話を鉄道次官の佐藤栄作(座談会当時、首相)の方へ申し入れたということです。それで国労と組んだ『炎の男』がストップになり、それが強力な弾みになってストライキに入ったんです」。4月10日付読売には「会社側の腹案は千三百名」との観測記事が。第二組合経由の情報だろうか。
4月20日付朝日には「日映演東宝撮影所分会では、今回の首切りが労組法第11条違反として19日、都労委に提訴した。提訴の主な理由として、組合幹部の不当首切りを挙げている」との記事が載っている。
「今度の人員整理は赤字克服という経済上の問題が原因であり…」
会社側の姿勢は強硬で第二次、三次の首切り方針を打ち出す一方、撮影所の休業などを持ち出したが、組合側は解雇通告者が撮影所に泊まり込むなど、にらみ合いの状態が続いた。そんな中、読売は馬淵威雄・労務担当重役と伊藤武郎・日映演委員長の「東寶問題 労資代表の紙上対決」を5月2日付から2回にわたって掲載した。
その中で馬淵重役は「今度の人員整理は赤字克服という経済上の問題が原因であり、伝えられるがごとき、共産党員なるがゆえに首切るというようなことは考えていない。赤字の最大の原因は人員が多すぎることです」と、いかにも白々しい発言を押し通している。
「もう一つの原因は作品のコストが非常に高いことだ」「私たちは何とかして危機を乗り切りたいと念願していただけで、最初から首切りをやるつもりで東宝に乗り込んだわけではない」とも。
これに対し伊藤委員長は「馬淵さんの意見には全部反対です」「頭から枠をおっかぶせてきても、急にそうできるものではない。馬淵さん、これでは言葉にこそ出さぬがはじめから首を切るハラであったと言われても仕方がないでしょう」「数は少ないが作品は全て良心的なものばかりで1本で5本分の価値があるのです」などと反論した。
苦肉の策の「出稼ぎ」
5月7日、組合側が会社側に先がけて地位保全の仮処分を東京地裁に申請。会社側も10日に追いかけて申請した。都労委の審議が同月11日に開始。事態は「もつれる東宝争議」(5月13日付朝日見出し)、「労資四つに組む」(5月15日付朝日見出し)展開に。5月27日、会社側は6月1日以降の撮影所の閉鎖と給料不支給を発表した。
そんな中、6月28日付朝日には「東宝組合の内職自活ぶり 婚礼の着付にも出張 給料停止の八百名に“給與(与)”」という話題ものの記事が。