阿部:
昔の棋士は、対局後に記者も交えて飲みに行ったりしてたわけじゃないですか。けど今は黙食してるし、対局中はもちろん話さない。
──今後、ソフトで研究することが一般的になり、さらにコロナの影響で対局日にも話さない。棋士同士が孤立していく傾向が加速すると、また……。
阿部:
起こりやすくなりますね。研究会が非効率的かどうかという議論はありますが、組織の運営のためには有用でしょう。情報交換にもなりますし。人と人とが対面で将棋を指すというのは、やっぱり重要なことなんですよ。
でも、棋士が棋士に話しかけるって、何かしら警戒されてしまうところがあって……話す機会もそうそうないし。今はみんなピリピリしてますからね。会釈はしても、声を出して挨拶することはだんだん珍しくなってきました。
──戦う相手なわけですから、それはそれで正しい方向なのかもしれませんが……そうなんですね。ソフトがもたらした影響というのは、将棋だけではなく、棋士同士のコミュニケーションにまで及んでいるのですね……。
阿部:
あと、私と渡辺名人が共演NGだと勘違いしていた視聴者がいたように、将棋ファンの方々にもご心配をおかけしてしまうことも。本人同士はなんとも思っていないのに。
コンピュータが原因で人々が分断してはいけない。人工知能の思うつぼになる(笑)。
──コンピュータに支配される将棋界なんて、まっぴらごめんですよ!
阿部:
でも結局は、どんな道具も使う人次第なんだと思うんです。
──使う人、次第……。
阿部:
今のiPhone以下の性能のコンピュータを使って、人類は宇宙開発をしていたんです。そんな低い性能の道具だって、工夫すれば、宇宙へ行くことすらできる。
将棋の真理に到達するためには、高性能のマシンが必要なのかもしれない。けれど勝負に勝つためであれば、使い方を工夫しさえすれば、低スペックのマシンであってもそれは可能なはずなんですよ。