──なるほど……駒落ちはそれで効率よく勝ち星を稼いで、浮いた時間を平手の勉強に回すことができれば、定跡を作る価値は十分過ぎるほどありますね。
阿部:
平成の真ん中くらいまでは、将棋界って自分の頭一つで戦える世界でした。けど世の中の流れが変わってきて……これ、将棋連盟がどうにかできる問題じゃありませんよね。客観的に見て。
これがCPUだけであれば、ちょっと無理すれば手が届くかもしれない。でもA100とかが出てきてしまうと……。
──プロ棋士ですら購入には躊躇しますよね。インスタンスを借りるというのが囲碁の世界では主流のようですが。
阿部:
そもそも囲碁の棋士と違って将棋のプロ棋士がAWSを使用するのって、普通のアパートだとアンペアが足りなかったりした場合には自宅に消費電力の大きなPCを置けないので、その時ぐらいですし。それにインスタンスを借りるのにクレジットカードが必要だとしたら、未成年の奨励会員は借りられなかったりする。
だから今回、CPUが勝ってくれたらまだ、こうした問題にも直面せずに済んだんですよ。
──今回は引き分けでしたから、ディープラーニングを導入しようと思う人も、まだ少ないんでしょうね。
阿部:
でも勘のいい人は、10年前にわかってるわけですよ。私もCSAの会員として選手権を見続けて、こういう時代がいずれ来ることはわかっていたので。
変な話なんですけど……将棋教室とかでよく『強くなるための方法』を聞かれたりするじゃないですか。けどそれって、その方法を公開してしまった時点で、使えなくなってしまうものなんですよ。
──みんなそれをやってしまったら、差が開かなくなる。
阿部:
と、思うんです。だからそれは各自見つけるべきだし、それがこれからの研究なんですよ。どうやってソフトを使っていくのかを、自分で考えることが。
パワーゲームに参戦してしまうと厳しいですよ。東京出身で、千駄ヶ谷の近くに住んでいるといった、非常に恵まれた人なら、そういうやりかたがいいと思うんです。