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「顔の綺麗な男は半人前」男社会の謎ルール

「その本には、『いわゆる男社会では男たちだけは平等だから、顔について言われることはない。その代わり、綺麗な顔をしている男は半人前だとみなされる』といったことが書いてあるんですね。容姿に気を遣う男性を軽んじるような風潮があるとしたら、それはいわゆる男社会の在り方と構造的に関係しているという示唆を得たわけです。美少年は男に非ずというのが男社会の掟。それは歴史的にも繰り返されていて、今でもなくなっているわけではない、と」

 男性社会とメイクの関係について、鎌塚氏は田辺聖子のエッセイ『男の化粧』を例えに出す。

「銭湯にマイシャンプーなどの化粧品を持っていく男性がいるという話なのですが、当時の世論としては『マイシャンプーとは何事だ! これは男がいずれ化粧することになるのでは(そんなの世も末)』といった、マイシャンプーにも化粧にも否定的なものが多かったようなんです。

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©糸井のぞ・鎌塚亮/講談社

 田辺さんは『男のお化粧に賛成だ』と肯定的な立場だったのですが、それからも同時代に男性が洗顔料をつかうようになったり、髪を染めたりするたびに同様の議論が巻き起こったようです。今でも日傘をさす男性を揶揄するような風潮がありますよね。近年の異常な暑さを考えると、むしろ営業職の人は日傘がないと外回りもしっかりできないと思うのですが。

 こうした作品との出会いもあって、自分のなかにあった『男性がメイクをするなんて恥ずかしいこと』という潜在意識を、客観視することができるようになっていったんです」

スキンケアは「自分の弱さを認めること」

『僕はメイクしてみることにした』の作者、糸井氏もこういった男性社会のしがらみを、鎌塚氏の連載を読んだときに感じたという。

「鎌塚さんの連載に『洗顔が大好きで、洗顔で全てを済ませようとしている男性が多い』と書かれていて、これは自分の弱さを認めたくない男性を象徴しているのかもしれない、と感じました。スキンケアやメイクは、いわば自分の欠点を認めて、よりよくなろうという行為でもあるわけじゃないですか。だからかたくなに化粧水や乳液をつけないことは、体調が悪くても病院に行かずに我慢したり、自分の弱さを認めることが難しい男性特有のある意識と全てつながっているのかなと思っていて。それがこの漫画の裏テーマでもあります」

©糸井のぞ・鎌塚亮/講談社

 男性をスキンケアやメイクから遠ざけているのは男性自身の思い込みや偏見だけではない。そうした偏見や固定観念は、実は女性側にもあるのかもしれない。糸井氏は女性だが、「この漫画を描き始めて、自分の中の思い込みに気づいたんです」と語る。

「鎌塚さんの連載記事は、ご自身の体験として書かれているので、スンナリ入ってきました。『男性もこういう風に悩んでいるんだなぁ』と思いましたし、私自身、男性の肌は強くてゴシゴシ洗っても大丈夫なものだと勝手に思っていたのが、実際はそうじゃないと知りました。