メイクを“密輸入”する「普通の男性」たち
この前、実家に帰ったらスキンケアなんか興味のなかった父が日焼け止めを塗り始めていて、驚いたことがありました。それも、自分は肌が弱いからとしっかり敏感肌用のものを選んでいて。『ちゃんとケアしてるんだ』って思いましたね」
着実に広がりを見せつつあるメンズメイクだが、男性向けコスメはキャッチフレーズが「できる男のたしなみ」みたいなものばかりだと鎌塚氏は語る。まだ、メンズコスメは仕事の延長上にしか位置づけられていないようだ。
「まだまだ、メンズメイクは『バレないようにすること』がメインで、自分のためではなく『仕事のため』という建付けがされているんです。連載を始めてから、知り合いに教えてくれと言われることは結構ありますが、みんなこっそり来ますし(笑) 。多くの人が何かしたいと思いつつ、それを人に気づかれたくはないんです。
サウナや筋トレみたいな自分を虐めるのはOKだけど、日傘やスキンケアのように自分に優しくする行為はなんとなくNGみたいな男性文化みたいなものは、確かにありますよね。セルフケアという点では同じなのに、素直に自分をケアすることがどうしてこんなに難しいんだろうと。サウナとか筋トレとかを経由して自分をケアする文化を“密輸入”しないとケアできないみたいなところがある気がします」
自分で自分を大事にするセルフケアを
“バレてはいけない”メンズメイクをしていることを隠さない鎌塚氏だが、それは「自分が好きだから」とか「きれいになりたいから」という理由ではないようだ。「自分はネガティブなので」と前置きしてこう語る。
「そこまで自分を好きになれないし、『美』に価値をおかない自由もあると思います。だから、私と同じように『自分を愛する』とか『きれいな自分になる』という言葉にどこか乗れない人を意識して連載で書きましたし、糸井さんが漫画で上手く拾い上げてくれていると思っています」
糸井氏はこの考えに強く共感し、コミカライズの依頼を引き受ける決心をしたと語る。
「自分を大事にできるのも、自分と向き合えるのも、基本的には自分しかいない。歳をとると調子がいい日も減っていくし、日々、自分を維持するために何かすることは良いことだと思うんです。私も自分のことが好きなわけでもないけど、生きていかなきゃいけない。だから面倒でも気にかけてあげる。そういったセルフケアとしてのスキンケアやメイクということは、漫画の中でも大事にしているポイントなんです」
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