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スパルタ指導は事実ではない

 東京五輪直前、金メダル候補として東洋の魔女はメディアに繰り返し紹介され、大松の厳しい指導にひたすら耐える練習ぶりが紹介された。そして、金メダルを獲ったことで、スパルタ指導が市民権を得たのである。

 しかし選手たちは、自分たちの実像とは違う、と語る。

“東洋の魔女”主将だった故・葛西昌枝氏 ©文藝春秋

 河西がそこの誤解だけは解いておきたいと言葉を強くした。

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「もちろん、時を重ねるといい思い出だけしか残らないものですが、そんな感情を差し引いても、私たちが無理やりやらされていたという感覚はありません。私たちは先生の指導にただひたすら子羊のように従ったと思われているみたいですが、私たちが特訓に身を投じたのは、世界一になりたいという私たちの強い意志があったから。そのための指導を先生がしてくれたということなんです」

 確かに大松は五輪後、雑誌のインタビューにこう答えている。

「私は選手たちのためにやっていたんです。選手に将来の思い出を残してやるために、やっていました。自分のためを考えるのだったら、とっくに辞めていましたよ」

 カリスマ指導者の元祖といわれている人は実は、プレイヤーズファーストの考えの持ち主だったのである。歴史のどこかでボタンのかけ間違いが起きた。