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韓国、台湾…儒教国家で「老人支配」が進む理由

「絶対核家族(親の遺言で相続者を指名)」の米国や「平等主義核家族(平等に分割相続)」のフランスより「直系家族(長子相続)」の日本やドイツの方が「高齢化」が進んでいます。しかしまず指摘したいのは「直系家族社会だから老人支配から脱却できない」と考える必要はないことです。「直系家族」は権威主義的な社会ですが、その強みは、明治維新のように“上からの改革”が得意な点にあります。つまり「老人支配」の問題をエリートが意識さえすれば、方向転換できるチャンスはあるわけです。

 ところが現実の日本は“自国の危機”に向き合えていないようです。「家族」を重視することで、勤勉で秩序ある日本社会の基礎が築かれてきたわけですが、子育てや介護のすべてを「家族」で賄うことなどできません。「家族」の過剰な重視が「家族」を殺す――「家族」にすべてを負担させようとすると、現在の「非婚化」や「少子化」が示しているように、かえって「家族」を消滅させてしまうのです。「家族」を救うためにも、公的扶助で「家族」の負担を軽減する必要があります。

日本よりもさらに深刻な出生率低下にあえぐ韓国

 日本だけではありません。韓国、台湾、中国といった東アジア諸国も同様の“危機”に直面しています。欧米諸国における「老人支配」が「普通選挙」を通じたものだとすれば、東アジア諸国では「儒教」の存在が「老人支配」の度合いをさらに強めています。

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「儒教」が誕生した約2000年前の中国は「直系家族」(現在は「外婚制共同体家族」で「兄弟間の平等」という価値観が加わる)社会で、「直系家族の価値観」を正当化するイデオロギーが「儒教」です(中国は核家族→直系家族→外婚制共同体家族、日本と韓国は核家族→直系家族と変遷)。「親」と「老人」を敬う儒教社会では「成人した子供」が「親の世話」を担います。しかし「親の世話」の負担が過大になれば、「子供を産み育てる」エネルギーは削がれてしまいます。東アジア諸国では「1人も子供を産まない女性」が25~30%にも達し、出生率が異常に低く、日本と中国は1.3程度、韓国と台湾は1.0程度です。出生率は2.0に近い水準でなければ、社会は現状の人口規模を維持できません。

台湾も人口減少に悩む

 さらに今日「経済至上主義」が世界を席巻し、我々は眼前にある“危機”に知的に無防備な状態に置かれています。思想が現実に追いついていないのです。「老人支配」の下で「経済」ばかりが論じられていますが、「人口」こそ真の問題です。その点で最も思想的に後れをとっているのが、韓国と台湾。「経済的に成功した国」として持て囃されていますが、「人口学的な自殺」を遂げつつあります。いくら経済で成功を収めても、出生率が1.0程度では、社会自体が存続できません。

エマニュエル・トッド氏「『老人支配国家』に明日はない」全文は、「文藝春秋」2022年2月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

文藝春秋

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「老人支配国家」に明日はない