「さあ、なぜだろうか」
「入所時に、問題ありそうだと判断された者は1号室に放りこまれるんですよ。事務所のすぐ隣ですので、たとえ騒動を起こしても対処しやすいですからね」
「そうなの。この寮に2段ベッドの部屋があるなんて知らなかったよ。だけど2段ベッドだと、上のベッドの者が寝小便をしたら、下の人はたまったもんじゃないな」
「クフフ、そんな事件が実際にあったみたいですよ」
「下の者にとっては大事件だよ。おや、雨か、なんてね。アッハハハ……。ところで、素行が悪そうな連中と2段ベッドは関係あるの?」
「それは、ないですよね。アハハハハ……」
隔離室のような8号室に収容された、ヤバい男
私が職員ならまちがいなくショーコーを1号室にぶちこむのだが、彼は5階の5号室に住んでいる。
「1号室よりもやばいヤツが入っているのが魔の8号室です。この部屋は基本的に2人部屋なんですが、いまはサングラスの男がたったひとりで個室生活を謳歌していますよ」
「そうか、彼は8号室の住人だったのか」
5階の倉庫・リネン室のその奥に、まるで隔離室のような8号室がある。
「知っているんですか?」
「いつも食堂でサングラスをかけているんだから、嫌でも目につくよ」
「食堂や廊下だけでなく、風呂場でもサングラスをはずさないんだから変わっているよね。もしかすると、就寝中もかけてたりして」
ショーコーによると、最初彼は4号室にいたらしい。風呂上がりにドライヤーを使用していて「音がうるさい!」と同室の者から怒鳴られ、パニックになった。火がついたようにわめきだし、駄々っ子のように両手を振りまわして暴れだしたのだ。
報告を受けて駆けつけたスタッフも、わめき散らしている姿を目にして「この男はやばい」と判断したに違いない。すぐさま彼を別室に移動させることにした。数名のスタッフに連行されるようにして、空室となっていた8号室に収容されたのだった。
「いまは怒鳴る者もいなので、思う存分にドライヤーを使用していると思いますよ」
苦手な女性職員
ショーコーは甲高い笑い声をひびかせた。声がしだいに大きくなっていくのも問題だった。昼間なので杉山はいなくても、同室者に迷惑なのではとヒヤヒヤする。「もっと声を抑えてよ」と注意しても、話しこんでいるうちにいつのまにか大声になってしまう。
「苦手な職員っています」
また話題が変わった。でも、付き合うことにする。
「顔を見るのも嫌だというような職員はいないけど」
門限に遅れて面罵された暴力団員顔をした職員の姿は、あの日以来見かけることはなかった。退職したのだろうか。それともほかの施設に移ったのだろうか。とにかく、嫌な職員がいなくなってほっとしていた。
「いるの?」
「気に食わない職員は何人かいますよ。そのなかでも特に、女性職員の岸川が苦手なんです。嫌いというよりも、とにかく苦手。きつい性格をしていますからね」
「彼女から何かいわれたみたいだね。詳しく聞かせてよ」