「彼氏がいるのにありえん!」
「知華ぁ!」
友達の1人が動画を撮りながら声をかけた。知華は髪をいじりながら何げなく顔を向けたが、話し込むわけでもなく、数分して迎えに来た母親とともに帰宅した。
この日の深夜、知華はK也からかかってきた電話に出たり、コンビニの前で会ったB男とLINEのやりとりをしたりした。この頃、B男の友人がコンビニの前で撮った動画をインスタグラムのストーリーズにアップしていた。
翌17日、知華はいつも通り学校へ行ったが、教室にはいつもとは異なる空気が流れていた。朝読書の時間に、A子が友人二人をつれてトイレへ行き、前日に2年生がアップしたインスタの動画を見せた。A子らはトイレから帰ってくると、周りに聞こえるような声で知華に悪態をつきはじめた。
「彼氏がいるのにありえん!」
A子は、知華がB男と一緒に映りこんだインスタを目にして、K也という恋人がいるにもかかわらず、2年生のB男と遊んで浮気をしていると言いだしたのだ。それは瞬く間にクラス中に広まり、知華に白い目が向けられるようになった。
クラスの騒ぎはエスカレート
1時間目の国語の授業でも、教室のざわつきは収まらなかった。A子は遅刻してきたK也にもインスタの話をし、一緒になって浮気を疑った。この時には、授業中にもかかわらず、あちらこちらで口汚い言葉が飛び交っていた。
休み時間には、A子が改めてK也にインスタを見せて「これどう思う」と意見を求めた。知華を問い詰めるつもりかK也も「2年生男子を集めてもいいよね」と答える。
二時間目になると、クラスの騒ぎはエスカレートした。悪意が全体に広まったかのように、「何回言ってもわからん」「視界から消えればいいのに、まじ無理」「言われたくないなら死ねばいい」「嘘つくくらいならわかれたらいいやん」「私なら学校来れん」といった言葉が飛び交った。
この時A子は「死ね」「うちなら学校来れんわ。まじでよく学校来れたやん。別れた方がいいんじゃ」「男遊びしたいなら男遊びすればいいけど、彼氏がいるなら彼氏を大事にせなんやん」「男好き」といった発言をしている。
こうした過激な言葉は、知華の耳にどう響いていただろうか。同級生の証言では、黙っていたというから、なんとか聞こえないようにしていたのかもしれない。
二時間目が終わって休み時間に入ると、A子とK也は友達数名を伴って、知華を連れて二年生の教室へと向かった。K也は、動画をアップした二年生を見つけ出し、事情を問いただした。「たまたま(写っただけ)ですよ」という説明を受けるが、K也は重ねてB男に知華と一緒に帰っているのか尋ねた。B男は答えた。