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連載春日太一の木曜邦画劇場

爆笑とハラハラドキドキと淡い恋。厭な時代はコメディで気分転換!――春日太一の木曜邦画劇場

『釣りバカ日誌6』

2022/03/15
1993年(96分)/松竹/1980円(税込)

 とにかく暗いニュースが続く昨今、せめて映画を観ている時間くらいはカラッと楽しく過ごしたい。そんな時、頭を空にして笑えるコメディ映画はありがたい存在だ。

 特に「釣りバカ日誌」シリーズ、それも栗山富夫が監督をしたシリーズ前半はこういう時に重宝。中でも今回取り上げる第六作は格別だ。

 鈴木建設の浜崎(西田敏行)は仕事そっちのけで釣りのことばかり考えているグウタラ社員。一方、社長の鈴木(三國連太郎)は専制的ワンマンの仕事人間。これがプライベートでは上下関係が逆転し、浜崎が鈴木の釣りの師匠になる。釣りを通して立場を越えた友情を育み、「ハマちゃん」「スーさん」と互いを呼び合う二人が、トラブルに見舞われていく――というのがシリーズに共通した内容だ。

 他の社員は二人の関係性を知らないため、会社では釣りでのノリが出ないよう心配りする二人のやりとり、特に鈴木の社長モードの横柄な偉そうさと「スーさん」時の情けない好々爺ぶりとのギャップが笑いを誘う。西田と三國、名優同士のアドリブも交えた当意即妙の芝居も絶品だ。

 本作は、その設定が十二分に活かされている。

 鈴木は講演のため、浜崎はアイナメ釣りのため、それぞれ週末に釜石へ向かう。運転できない浜崎のため鈴木が車を運転するのだが、そのために講演会場の旅館で鈴木が運転手、浜崎が社長だと勘違いされてしまう。講演をしたくなかった鈴木はこれ幸いと浜崎に社長役を押しつけ、旅館の仲居と遠野へ出かけていった。一方の浜崎もやりたい放題。宴会で裸踊りをするし、講演でも下世話なトークで会場は大盛り上がりだ。

 立場が入れ替わったことで、互いに普段できない言動を思い切りやれる――そんな喜びを二人とも大ノリで演じているため、その芝居を観ているだけで楽しくなってくる。

 終盤は釜石の人々が東京に出てきての大混乱が描かれる。会社に現れた釜石の面々から浜崎も鈴木も姿を隠そうとするのだが、タイミング悪く見つかってしまうのだ。それでも、なんとかその場をしのごうとする二人の必死さが、さらなる大爆笑をもたらす。

 釣り仲間たちを集めて仲居の娘の結婚式を盛り上げようとする人情あふれるクライマックスと、これが招かれざる邪魔者の登場で破綻しそうになるハラハラドキドキ、そして淡い切なさの残る鈴木の悲恋。これだけ大満足の内容が、わずか百分弱の中に詰まっているのだから驚きだ。短いから、サクッと気軽に堪能できるのも、素晴らしい。

 厭な時代だからこそ、いっときの気分転換が重要だ。

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