「呆れてしまいましたわ」
しかし、シドニー五輪最終予選のメンバーであり、13位に沈んだ02年の世界選手権では主将を務めていたため、バレー関係者の評価は失墜していた。柳本が言う。
「吉原、竹下は勝利に向かって脇目も振らずに突き進むタイプだから、チームにゆとりがなくなってしまう恐れがある。組織を活性化するには、高橋のように悪戯心と遊び心を持った潤滑油が必要と考えた」
そしてにやりと笑いながら言葉を足す。
「個性の強い3人の選手をチームの中心にすえておけば、その3人にまたグループが出来、結果的には3は6になり、6は12になるんです。それでチームが固まる」
柳本は、吉原を軸にして竹下、高橋で脇を固めるチーム作りを決め、はたと気がついた。監督就任の面接の際に、「絶対に使うな」と釘を刺された3人だったのである。
彼女たちはいわば、バレー界の主流から外されてしまった選手と言ってもよかった。しかし柳本にはバレー界の思惑など眼中になかった。ワールドカップ前に柳本が、今思い出しても腹が立つと語ったことがあった。
「僕が全日本の監督に就任するかどうかも分からないときに、協会の幹部7人に面接されたことがあったんです。その場でいきなり『あの選手は使うな。この選手はダメだ』と名指しで選手を否定してきた。百歩譲って、僕が監督に決まっていたんであれば、その言葉にも耳を傾けますけど、まだ就任前なのに、よくそんな無神経なことが言えるなと呆れてしまいましたわ」