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「この人、何言ってんの」
高橋は吉原の言葉に、目の前の雲が取り払われた気分になった。
「ワールドカップで3位以内に入れば五輪の出場切符を手に出来るのに、いきなり『優勝する』って言ったんですよ」
最終予選の屈辱を味わっている高橋は、アテネ五輪には絶対に行くと心に期していた。そのためには、以前と違う取り組み方をしなければならないことも分かっていた。しかし「五輪に行きたい」と願うだけで、どれだけの覚悟を持って挑まなければならないのか、心根の深い部分までは分かっていなかったと言う。
「私たち中堅グループは『五輪に行きたい、行きたい』という集まりだった。でも、実際に五輪を知っている人は誰もいなくて、そこに2回も経験しているトモ(吉原)さんが来て『そんな中途半端な考えや練習では無理だよ』と言われた。『ワールドカップで優勝するようなチームを作ろう』と宣言されたときは、正直『この人、何言ってんの』と思ったけど、同時に『スゲーっ』と……トモさんの必死さに接していると、優勝するようなチームを作らなければ、五輪に行けないことに気づかされたんです。それからみんな、目の色が変わった」