文春オンライン

連載日の丸女子バレー 東洋の魔女から眞鍋ジャパンまで

「バレー界に彼女より上手いセッターはいますか?」全日本監督が「絶対に使うな」と釘を刺されたセッターを起用した理由

日の丸女子バレー #30

2022/03/26
note

“負け犬根性”が染み付いていた

 7年ぶりに日の丸のユニフォームを着た吉原は、合宿を始めてすぐ、愕然とした。自分が選抜されていた頃の全日本とは、何もかもが大きくかけ離れていたからだ。練習に対するモチベーションが低く、全日本への意識も中途半端で、世代交代がうまくいかなかったことを痛感した。

 バレーの技術はそこそこうまいが、それを勝負のときに引き出す闘争心が欠如していた。だからこそ、瀬戸際の勝負にも弱かった。何より、負け犬根性が染み付き、すぐに試合を諦めてしまおうとする姿勢が吉原には許せなかった。

アテネ五輪時の吉原知子さん ©JMPA

「あの子たちを口で引っ張っていくのは絶対に無理だと思った。やはり私が身体を張らないことにはついてこないと思ったし、一言も文句を言わせないためには、まず自分が先陣を切って練習をしなければと覚悟した。でも、怪我とかその後遺症とか色々考えていたら、私の身体がそこまで耐えられるのか、それが1番心配だった」

ADVERTISEMENT

 選手ミーティングの初日、吉原は選手1人ひとりに厳しい視線を向け、敢然と言い放った。

「五輪に行くのは当たり前のこと。私たちはまず、ワールドカップの優勝を目指す」

 吉原の言葉に、選手らはぎょっとした。ワールドカップ優勝なんて、誰も思いつかない発想だったからだ。しかもバレー後進国に成り下がってしまった自分たちにそんな高い山が登れるのか。

 吉原は、登る前に「無理」と諦めてしまっている選手たちに、頂上を目指す強い意志を甦らせたかった。