「大山、栗原をスタメンで使う」

 吉原、竹下、高橋、杉山、栗原、大山、リベロの佐野優子のスタメンが発表された瞬間、観客席から「ウォーッ」という地鳴りのような歓声が沸きあがった。新人の大山と栗原が同時にスタメンに立つことになったからだ。

 柳本は、大会前の記者会見で「大山、栗原をスタメンで使う」と明言していたものの、まさか同時に、しかも開幕戦からコートに入れるとは誰も予想していなかった。

 柳本は期待が込められた大歓声ににんまりした。大山と栗原を使うと発表したとき「若い選手を育ててくれ」と選手起用に口を出してきた協会首脳陣さえ「お前、勝つ気があるのか」「無謀だ」と忠告してきた。柳本は、開幕戦から若い2人を使うことによって、その反響の大きさを計算していたのである。

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アテネ五輪時の大山加奈 ©文藝春秋

 飛びぬけた若い才能を投入することによって、世間からそっぽを向かれてしまったバレーに、もう一度目を向けさせようとしていたのだ。

 コート内の選手たちは躍動していた。大山、栗原のレシーブミスは、高橋、佐野が瞬時にフォロー。シドニー五輪最終予選ではひ弱だった杉山も、コート狭しと走りまわる。6人が点ではなく、線となって機能していた。何よりコートには、闘争心がみなぎっていたのである。

 日本は3−0のストレートでアルゼンチンを下した。