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「あれ、みんなどうしちゃったんだろう」

 オリンピックの重みをまだ分からずにいた木村は、チームの雰囲気ががらりと変わってしまったことに驚いた。

「あれ、みんなどうしちゃったんだろう、って。表情が強張っているし、監督やスタッフはピリピリしているし、不思議な気持ちで眺めていました。でも、オリンピックってこれほどまでにみんなを変えてしまうのかと、その時に初めて、他の国際大会とは違うオリンピックの凄さが分かったんです」

 高橋は、自分のパフォーマンスが出来ないことに苦しんだ。

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最終予選時の高橋みゆき選手 ©文藝春秋

「トモさんから『オリンピックはすごいところ。絶対に行く価値がある』と散々聞かされていて『絶対に行きたい』と、朝から晩まで練習してきた。で、実際に来てみると、やっぱり膨大なエネルギーが渦まいているところだった。でも、来るまでの期待が大きかっただけに、その反動で『すごいところに来ちゃった、どうしよう』と、今度は逆にプレッシャーになってしまった」

 ブラジル、イタリアに大敗したあと、吉原はチームを締めた。

 凄い剣幕だったと竹下が言う。

「トモさんはみんなを見渡して、『誰かがミスったからと言って、その人に責任を転嫁するな! もし、自分がその立場だったらどうするの。キャッチが乱れて一番走っているのはテンなんだよ。それを打ち切るのがアタッカーでしょ。自分が打てないからって、人のせいにするな!』って。オリンピックが始まってからトモさんはあまり厳しいことを言わなかったんですけど、その時は結構声を荒らげていました。そして『今は下を向いてもどうなるものでもない。とにかく明日からは一点一点勝負して、相手を0点に抑えるくらいの気持ちでやろう』って語っていました」

 吉原はこの2敗を振り返ってみると、自分の態度にも問題があったのではないかと反省し、敢えて厳しい言葉を使ったのだ。

「みんなが浮き足立っているのは感じていましたから、その緊張を取ってあげようと穏やかに接していたんです。でも、それが私のミスだったかなと思った。試合のときの私は闘志をむき出しにし、ガーッとやる。みんながガチガチになっているときに、私まで厳しい言葉を吐いてしまったら、みんなつぶれてしまうんじゃないかと考えたのが、そもそも間違いだった。多分、みんなは口には出さないけど、『あれ、トモさん、どうしちゃったんだろう』と、かえって不安になっていたのかもしれない。いつも通りにガーッとやる姿勢を見せておいた方が、みんなも安心しただろうし、普通に戻れたかなと思う。とにかく、オリンピックというのは、普通のことが普通に出来なくなる場所なんです」