藤井は、先手相掛かりで勝率9割超えと圧倒的な数字
さて、第7期叡王戦五番勝負第1局は、昨年に引き続き江戸の総鎮守・神田明神で行われた。江戸は将棋の流行の発信源だ。初代名人の大橋宗桂を祖とする大橋家、大橋分家、伊藤家の将棋三家は、1667年に幕府から江戸に屋敷を与えられ京都から移住した。家元が江戸で将棋を流行させ、そして参勤交代制度によって全国に広まったのだ。
初タイトル戦の第1局で出口がどういう戦いをするのか、第3局を私の師匠の石田和雄九段が仕切ることもあって下見も兼ねて現地に赴いた。
振り駒で先手となった藤井は、相掛かりを採用する。2021年2月に広瀬章人八段との竜王戦で初めて採用して以来、20勝2敗! 勝率9割超えと圧倒的な数字を残している。対して出口は一番激しい将棋を選んで真っ向勝負した。出口は18手目に、過去29局の前例の中で1局も指されたことがない、横歩を取る激しい手順を選ぶ。指されたことがないと言っても、研究会など水面下では指されている将棋だ。
ここから1手1手難しい将棋に。藤井も飛車を走り、横歩を取る。両者の飛車が盤上を駆け巡る。藤井が2筋に歩を打ったところで昼食休憩に。私は午後1時過ぎに現地に着き、佐藤会長と検討を行った。
佐藤に藤井将棋を一言で表現してもらうと
佐藤は立会人でもないのにずっと和服で通し、スポンサーへの挨拶など会長の仕事をこなしている。現在の将棋界が盛り上がっているのは佐藤のおかげだ。だが、佐藤が一番嬉しそうにしているのは、やはり盤の前に座ったとき。とはいえ出口が大長考に沈み局面が進まないので雑談となった。
話の流れで藤井の感想戦の話になる。私は、渡辺明名人との王将戦第4局、佐々木勇気七段とのB級1組順位戦での感想戦を見ていたのだが、いずれも藤井の読みの深さに相手が絶句していたのを覚えている。
藤井はおそろしいほどの読みを披露して相手を圧倒し、感想戦でも何度も負かす、と私が言うと、佐藤は「それは体験してみたいですね、公式戦では1度しか対戦していないので」と笑う。
佐藤に藤井将棋を一言で表現してもらうと、「1局しか指していないのでなんですが……、『正確』ですかね」。
その後、私たちは藤井の「正確さ」をいやというほど見せつけられることになる。