「まさか本当に来てくれるとは!」と拍手喝采
翌日午前、天童市役所にて「天童桜まつり」の実行委員会が開かれた。冒頭に市長の挨拶があった。前日に将棋連盟に行ったことは、一部の関係者しか知らされていない。
「昨日、将棋連盟にうかがってきました。本年度の人間将棋に、藤井聡太竜王が参加の方向で進めていただけると、お返事をいただくことができました」
「おおーっ!」という歓声とともに、全員から拍手が鳴り響いた。
「まさか本当に来てくれるとは!」
「こられたらいいなとは思っていたけど、まさかな……」
誰もが実現できることが信じられない思いだった。
全国から往復はがきで11,714名の申し込みがあった
後日、将棋連盟から藤井竜王の参加と、対戦相手として佐々木大地六段(現七段)、女流棋士の対局者として加藤桃子清麗(体調不良により上田初美女流四段に変更)、竹部さゆり女流四段、解説者として木村一基九段が決定したことが伝えられた。
商工観光課課長補佐の高橋哲也さんは、「願ってもない、最高の布陣でした」と言う。だが、手放しで喜べたわけではない。
「むしろそれからの方がプレッシャーが大変でした。これまで入場制限をしたことはありませんでしたが、コロナ禍で抽選にしなければならなかった。さらに状況が悪くなれば無観客にするしかない。最悪の場合、開催を中止せざるを得なくなったら、尽力していただいた方々に申し訳が立たないと思っていました」
そうした危惧から、すぐにお祭りムードが広まることはなかったが、観戦希望の申し込みは予想をはるかに上回った。人間将棋は4月16日と17日の2日間行われる。藤井竜王と佐々木六段が対戦する17日は、観戦席660席とモニター前のプレビュー席550席の計1,210席が用意された。そこに全国から11,714名の申し込みがあった。コロナ禍でなくとも、抽選にせざるを得なかったのである。映画「3月のライオン」公開時に俳優の神木隆之介さんが参加したときでも、入場者数を制限したことはなかった。
申し込み方法は往復ハガキだったため、当選者、落選者のすべてに返信する作業に追われた。1人1枚までの申し込み規約だが、複数枚を送ってきた人もいる。全員の名前をパソコンに入力し、抽選が平等に行われるようにした。事務処理には観光物産協会のスタッフ十数人が当たり、残業して1枚1枚の返信作業にあたった。
連日山のように届くハガキに、「一体、あとどれだけの応募がくるのだろう?」と不安も感じたが、ハガキに綴られた3年ぶりの開催への喜びや励ましの声、棋士たちへの熱い思いが彼らの支えとなった。