呼吸もぴったりな姉妹弟子の掛け合い
市内のすべてのホテルは、人間将棋開催の発表と同時に満室になった。抽選に外れた人からのキャンセルも多数でたが、その後に当選者からの予約が入り、最終的にほとんどのホテルが久しぶりの満室になった。
4月16日、人間将棋初日。前夜からの雨は午前中で上がり青空が広がっていく中、上田初美女流四段と竹部さゆり女流四段の対局が行われた。二人とも武者姿がとても凛々しい。上田女流四段はよく通る美声に加えて、口上が男前である。聞いていて惚れ惚れさせられた。竹部女流四段は、これまた天然のファニーボイスで応戦する。この可愛らしさは、もはやずるい。
姉妹弟子なだけに呼吸もぴったりで、絶妙の掛け合いが繰り広げられた。すべての駒を動かすという暗黙のルールがある中で、全軍躍動の熱戦になっていく。終局後、解説の木村九段に「人間将棋史上に残る名局」とまで言わしめた。そしてこの日の夕刻、ついに天童に藤井聡太竜王がやってきた。
木村九段のアドバイスは「“ござる”を付ければ大丈夫」
藤井竜王、佐々木六段とも人間将棋の対局は初めてであり、前夜にホテルで打ち合わせが行われた。二人とも昔言葉で上手く話せるか悩んでいたが、木村九段の「いやあ、そんなの最後に“ござる”を付ければ大丈夫だよ」の一言で納得したようだった。
高橋さんは藤井竜王が打ち合わせ後も、木村九段のところに行って相談している様子を見ていた。
「ちゃんと演じなければならないと、思われていたのでしょうね。19歳という若さでタイトルを持っていることに、自分の使命感を強く感じているようでした」
この日の夜、筆者は佐々木六段に会う機会があった。対局も多く、イベント出演は大変だろうと思ったが、「甲冑を着けてみたかったんですよ。この日のために髭を伸ばしてきました(笑)。明日が楽しみです」と清々しい返事だった。
翌17日は朝から快晴だった。舞台となる舞鶴山は満開の桜に彩られた。空と桜が素晴らしいコントラストを見せるが、木村九段によると、こんな日は対局者にとっては日焼けが厳しいという。