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「スマホを持たない自転車乗り。だから追跡できない」48日間逃げた富田林署脱走犯(30)が、地元の人に“好青年の旅人”と思われたワケ

「スマホを持たない自転車乗り。だから追跡できない」48日間逃げた富田林署脱走犯(30)が、地元の人に“好青年の旅人”と思われたワケ

高橋ユキ『逃げるが勝ち』インタビュー #2

2022/06/09
note

“コミュ力”も高かった山本

――この島の話だけ読むと、万引きをすることを踏まえても山本は純朴な青年にも思えますが、全体でみれば、打算的な人物にも思える。

高橋 逮捕後に山本と文通したのですが、文面からは「自分のために動いてほしい、そうじゃないと何も教えない」という取引めいた感じがしました。いろいろと頭を働かせて、人を利用できるか、見極めようとしている印象です。要求も多くて、保釈保証金の支援を求めてきたりもする。当然断るのですが、何度も言われて困りました。

――話は逸れますが、獄にいる人に本を差し入れたりするのは、面倒くささとか面白さがあったりするものですか?

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 もちろん面倒くさいです。でもやっぱり面白さが勝ってしまうときがある。「この人はこんな本を読みたかったんだ」と思ったりするんです。これは別の事件の話ですが、手紙でやり取りしてるときに「もうお金がないから、これだけ差し入れてほしい」とリクエストしてきたのが、姓名判断の本だった。「なんで今その本がいるんだよ」と思うんですけど、慌てて送ってあげました。はたして、なんのために必要だったか。

――今どきの言葉でいえば、山本は“コミュ力”も高いですね。

高橋 山本は自転車の一人旅をしていた40代の男性に「ついていったらあかんかな?」と言って、二人旅にするなど、巧みに利用しています。二人旅のほうが、より怪しまれないからでしょうね。

 この男性は山本について「必要ないものまで買うので、日本一周はできないだろうと思った」と証言しています。コメや肉、駄菓子などを買うからです。ほんとうに日本一周しようとしている人の目からは、キャラ作りのために格好から入った山本の行動は、違和感をおぼえるんでしょうね。

普通の旅人に見られるよう振舞っていた

――一般人の洞察力でいうと、「同行者の方が怪しかった」という証言が本書にはあります。 

高橋 そこは書くのは悩んだところです。でも、複数の人が同じことを言っていたので、本に入れました。

――逆を言えば、「詐欺師の門構え」という格言と同じで、逃亡犯の山本は怪しまれないようにしないといけないから、好青年に思われるようにふるまう?

高橋 それはあると思います。とっつきやすい風貌をしているし、逮捕された後、四国のお寺や、道の駅などで撮られた記念写真が多数出てきましたけれども、写真を撮られるのを嫌がっている感じではないので、ぜんぜん逃亡中には見えない。ほんとうに普通の旅人という感じです。