1965年(104分)/東宝/2750円(税込)

 かつて浅草の六区にあった映画館「浅草東宝」では毎週土曜日にオールナイト上映をやっていた。東宝配給の旧作邦画をメインに、毎回一つのテーマを設けて四~六本を上映していたのだが、二十代の頃はこれにほぼ毎週のように通っていた。

 ある週は山﨑努の特集が組まれていて、そこで今回取り上げる『惡の階段』と出会う。

 当時は全く知らない作品であり、あまり期待しないで観た。すると、これが驚くほどのピカレスク・ハードボイルドの傑作だったのである。これがついにDVD化されたため、本欄でも扱えるようになった。

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 岩尾(山﨑)、下山(西村晃)、熊谷(久保明)、小西(加東大介)の四人があるビルに侵入するところから物語は始まる。このビルは表向きキャバレーなのだが、裏では麻薬の密輸が行われていた。そのため、盗んでも警察に通報される心配はなかった。

 この冒頭から、もうカッコいい。モノクロの映像に浮かび上がる四人のシルエット、コート姿の山﨑のニヒルな横顔、緊迫感あふれる金庫破り――その映像は徹底してクールでスタイリッシュ。この段階で、もう既に夢中になる。

 四人には、さらに大きな目的があった。それは、とある大企業の金庫。全従業員の給料が会社の金庫に一晩だけ置かれることになっていて、その間に奪い取ろうというのだ。

 計画は無事に成功する。岩尾は町外れに不動産屋を開き、六カ月の間、その地下に金を隠すことにした。足がつくのを避けるためだ。一同はそれに納得するものの、やがて欲に駆られた男たちは、その禁を破って仲間割れを始める。

 感情を表に出すことなく粛々と悪事を進めていく山﨑の恐ろしいまでの冷徹さ。小市民だからこその心の弱さを、いじましいまでに見せる加東。爬虫類の如き、ぬめり気のある狂気を徐々に発揮して山﨑と対峙する西村。――その特徴を存分に活かした名優たちの演技を、鈴木英夫監督は冗長な情感を一切排した演出でドライに切り取る。その結果、作品全体をヒリヒリする緊迫感が貫くことになった。

 そして重要な役割を果たすのが、岩尾の情婦・ルミ子(団令子)。一見すると一途に岩尾に尽くす純粋さを漂わせながら、その裏側に一癖ある妖しさを匂わせて男たちを翻弄していく。「社長」シリーズなどでの清純な明朗ぶりとは一味違う、妖艶なファムファタールぶりが作品のハードボイルド性を高めていった。

 終盤はほぼ、不動産屋の屋内と地下室のみで展開される。密閉された暗闇で繰り広げられる、悪対悪のせめぎ合い。意外な結末に至るまで、息もつけないほどスリリングだ。

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