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「あと数カ月の辛抱」という目標さえ見えない「宙ぶらりん」の状態が人間に与えるストレスは、残酷なほど深いものだろう。外部との通信手段は電話のみ、それも入管の外から被収容者にかけることはできない一方通行のものだ。ネット環境からは当然のように遮断される。電話ボックスをつなぎ合わせたような狭さの面会室はアクリル板で仕切られ、窮屈で息苦しい。後ろで職員が常に会話に耳をそばだてている施設もある。

「入管こそ国際的なルールを守るべき」

 茨城県牛久市にある東日本入国管理センターの収容施設の窓にはめこまれているのは、曇ったすりガラスだという。春になると咲き誇る梅も、満開の桜も、収容者たちが目にすることはない。ただただ、壁の外を通り過ぎていく季節に思いを馳せながら、5年、6年と「自分はいつ出られるのか」と自問自答し続ける日々自体が、拷問のようなものだ。

 たとえ収容を解かれたとしても、「仮放免」という立場では、就労の許可は得られず、健康保険にも入れない。まさに、生存権そのものを否定されてしまっているような状態だ。

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 まるで送還自体が「機能不全」に陥っているかのような報道も一部見受けられるが、実は退去強制令が出された人々のうち、ほとんどの人たちが送還に応じている。

「入管白書」などによると、2010年から19年にかけての送還率は、平均すると97%を上回っている。残りの3%に満たない人々が、「国に帰ったら命の危険がある」「日本に生活の基盤のすべてがあり、国籍国に家族はいない」「子どもが日本語しか話せない」など、何かしらの「帰ることができない事情」を抱えた人たちだ。

 そのような人々が何年もの間、いつ出られるのかもわからず施設に収容されているということも、決して珍しいことではない。

 2020年、国連人権理事会の「恣意的拘禁作業部会」が、入管のこうした実態を「自由権規約違反」と指摘した。それ以前に、国連の「拷問禁止委員会」などの条約機関からも、たびたび勧告を受けてきているが、国際社会からの声が正面から顧みられることはなかった。

 長期収容を経験したある男性は、「外国人には厳しく“ルールを守れ”というけれど、入管こそ国際的なルールを守るべきだ」と、憤りをもって語った。

外国人差別の現場 (朝日新書)

安田浩一 ,安田菜津紀

朝日新聞出版

2022年6月13日 発売