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判然としない名古屋入管の対応

 待機すること約2時間、ウィシュマさんの妹で次女のワヨミさん、3女のポールニマさんが、疲れ切った様子で1階に戻ってきた。代理人の指宿昭一弁護士によると、収容されていた部屋に、弁護士や議員の同行は認められなかったという。

 同行を認めない根拠として、入管側は当初「保安上の理由」を掲げ、しばらくやりとりが続いた後に「コロナ対策のため」という理由を加えてきたという。過去、弁護士や国会議員による視察は多数重ねられている。なぜ今回に限り「保安上の理由」が提示されたのかは判然としない。「コロナ対策」という理由についても、「少人数に分かれて入れないのか」など、代案を提案しても受け入れられなかった。

 居室だけが映っているはずのビデオの開示を拒み、その理由に「保安上の理由」を掲げながらも、遺族を施設内に案内する(居室以外の周辺環境も目撃できる)のは不可解だった。上川陽子法務大臣(当時)は2021年5月14日の会見で、入管庁に対し、「遺族の意向を尊重して対応するよう指示した」としていたはずだが、真逆の対応が続いていることになる。

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入管という公的機関の闇

 代理人弁護士が録音した、内部でのやりとりの音声を確認してみた。名古屋入管局長の佐野豪俊氏(当時)は、「現在調査されている身である」として、遺族からの質問に対する明確な回答を避けている。指宿弁護士は「事実はひとつですから、本省(法務省)に答えたのと同じことを遺族に言えばいい。本省が事実をねじまげる準備をしているから自分たちは言えないと言っているようなもの」と憤る。

「中はあまりに狭く、段ボールの机とベッドが置かれているだけ。こんなところにいたら、心を病んでしまう」とワヨミさんは震える声で居室内部の様子を語った。また、案内を受けている間も、不自然なやりとりがあったという。「ここがウィシュマさんがいた部屋です」と職員に案内され、改めて「ここが本当に姉のいた部屋なのですか? カメラはあるんですか? どれくらいの期間いたのですか?」と尋ねても、回答を得られなかったという。

「ここが本当に姉のいた部屋なのですか?」という問いにまで答えないのは、なぜだろうか。最初から遺族の質問には答えない、という前提で案内をしていたのではないかと思わざるを得ない。

 指宿弁護士と同じく、遺族側の代理人を務める駒井知会弁護士はこう語る。

「ビデオ開示などを拒否すること、議員の視察を拒むことは、失礼、無礼という話ではなく、“この国の崩れ方がここまできてしまったのか”ということの表れだと思います。これは日本社会に暮らすすべての人にとっても、危機ではないでしょうか」

 入管という公的機関の闇は、局所的な腐敗や機能不全ではなく、この日本の社会制度全体で、何かが欠如していることを物語っているのかもしれない。