文春オンライン

2022/08/08

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, ライフスタイル, 娯楽

 それは所謂、怖い話の中に出てくる、あの火の玉そのものでした。私は、火の玉そのものも怖かったのですが、玉から上がる炎が家の天井を焼かないかということも怖かったのです。それだけ火の玉は大きかったのです。

 逃げようと思って部屋の扉の所に行こうとした時、火の玉に遮られました。私は扉の前に立ちはだかる様に浮かんだ火の玉を、思いっきり平手で叩きました。熱さは全く感じませんでしたが、まるでボウリングの玉を叩いたような感覚で、びくともしません。そして、平手で叩いた瞬間に小さな火の粉が飛び散ったのですが、それらが小さな火の玉となって、部屋中に飛び始めたのです。私の記憶では、丁度、握り拳くらいの大きさでした。

火の玉が、一斉に私めがけて…

 逃げ場を失って大きな火の玉と対峙している時、突然小さな火の玉が、私のお腹めがけて飛んで来ました。お腹に殴られた感覚があり、その反動で、布団の上に仰向けに倒れ込みました。

 そして倒れた瞬間、金縛り状態になったのです。天井を見上げる形で動けないでいると、火の玉が目の前にやってきました。そして火の玉は、オレンジ色から青白い色へと変わり、やがて人の顔に変わっていったのです。

 それは髪の毛の長い女性の顔で、私の事を睨みつけて来ました。空中に、見知らぬ女性の頭部だけが浮いているのです。明らかに私に対して敵意を抱いていました。

写真はイメージです ©iStock.com

 声も出ない、体も動かない状況で、私はその女性を見続ける事しか出来ません。これからどうなるのかと不安でいると、女性の頭は部屋の天井をぐるぐると飛び回りながら、呪文の様なものを唱え始めました。

 次の瞬間、周りに浮かんでいた小さな火の玉が、一斉に私めがけて飛んできました。全身至る所に当たり、このままだと殺されると恐怖を覚えました。心の中で「ごめんなさい、ごめんなさい」と連呼しましたが、一向にその攻撃は止みません。その時の感覚ですが、攻撃が終わるまでに、恐らく1分以上はあったと思います。