文春オンライン

2022/08/08

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, ライフスタイル, 娯楽

桐本君が語った、恐怖体験の真相

 私は彼を捕まえると、先ず、御守りを見せました。そして、昨夜の事を全て話しました。私が話し終わると、彼は驚いた様子でこう聞いて来ました。

「その女の人って、目元にホクロがなかった」この質問に、とても驚きました。確かに、右目の横にホクロがあったのです。

 ホクロがあった事を伝えると、彼はその女性の正体が分かったと言って、泣き出しました。

「その女の人は、僕のお母さんに間違いないよ」と。

 その後、彼が落ち着くまで待って話を聞くと「身代わり御守」の意味も分かりました。

「死んでしまった後も、私の身代わりとして…」

 桐本君の母親は、私達が中1の時に病気で亡くなったらしいのです。それから桐本君はあまり人と話さなくなり、性格も暗くなって、虐められる様になったのです。

 お母さんは亡くなる前に「お母さんが死んでしまった後も、私の身代わりとして、この御守りを持っていてね」と渡されたそうです。それであの時、桐本君はこれだけは大切にしていたのだ、と理解出来ました。

写真はイメージです ©iStock.com

 ここまで話を聞いて初めて、自分が全身を殴られた痛みも、恐怖心も、そして桐本君の気持ちも、やっと少し分かった様な気がしました。

「桐本、今までごめん」私は本当に悪いことをして来たと、桐本君に土下座しながら謝りました。

 その後、桐本君の御守りを自分の母親に綺麗に縫って直してもらい、彼に返しました。そして、私の親に対する反抗期も、この日を境に終わりました。

 桐本君とは、大人になった今でも、仲良くさせて貰っています。

 外敵がなく、狩りの必要もない現代人にとって、巣立ちとは、いつを指して言うのでしょうか。それはもしかすると、集団生活を送る中で、周りの人達の気持ちを理解し、互いに認め合う事が出来るようになった時かもしれません。一言で言えば「和」を理解出来た時なのではないでしょうか。

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