筆者が責任編集を務めたムック本『文藝別冊 高倉健』(河出書房新社)が来たる、八月十六日に発売になる。
クレジットは「責任編集」なのだが、座談会を含む関係者二十八名へのインタビューの全てと四万字近い論考パートを一人で担当しているので、実質的に著書のようなものだ。想定以上の超大作となり、制作に九カ月かかった。
そこで、今回からしばらくは高倉健の主演作品を追っていきたく思う。
武骨で寡黙、一徹な正義感と仲間想いの人情味があるが、怒ると誰も寄せ付けない凄味を発する。そして、何も言わずにそこにいるだけで画(え)になる――。高倉健といえば、多くの作品でそうした人物を演じてきた。そんな高倉健像を、人々は憧れと親しみを込めて、「健さん」と呼ぶ。
ただ、最初から高倉健は「健さん」としての演技を確立していたわけではない。彼にも、青い若手時代があった。
今回取り上げる『殴り込み艦隊』も、若き日の高倉健の姿を今に伝える作品だ。
物語は、太平洋戦争真っ最中の前線基地・ラバウルから始まる。高倉健が演じるのは、若きエリート将校・石山。上官に反抗したために、ラバウルに停泊する荒くれ者ばかりの駆逐艦へ左遷されてきた――という役どころだ。
この時の高倉健はデビューして四年のギリギリ二十代。まだアウトロー役でその魅力を開花させる前で、美空ひばりの相手役など、爽やかで健全な役柄が多かった時期だ。
本作も、その延長線上にある。赴任してくるや、艦内でダラけた下士官たちに「規律がたるんどる!」と怒鳴ったりするため、艦長(田崎潤)から「まだ若いな。上着は脱いだが裸になっちょらん」と窘(たしな)められたりするような、青々しい理想論者なのだ。
役柄だけではない。高倉健自身の演技も、青くて硬い。海軍の白い軍服姿は颯爽として凜々しいのだが、動きはぎこちないし、発声も――後のドスの利いたものとは程遠い――甲高く上ずっている。
そのため、神田隆、安部徹、殿山泰司、花沢徳衛、山本麟一、関山耕司といったクセ役者たちの演じる、叩き上げの荒くれ隊員たちに囲まれると、浮いた感じが強い。もちろん、それが狙いの配役ではある。だが、その狙いが成り立ってしまうほど、青さや硬さが表に出ていた。
これだけ頼りなかった若い俳優が、頼りがいある「健さん」に変貌するには、自身が相当な努力をしたということでもある。歴戦の強者たちに揉まれながら軍人として逞しく成長していく本作の石山の姿を追っていると、そんな高倉健自身が重なってきた。