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77年、運命の夏

「『君たちは身体を大切にせい』と言って、あっちでもバーン、こっちでもバーンと、あちこちで手榴弾の音が…」“日本軍”として戦った台湾原住民が見た「終戦の瞬間」

「『君たちは身体を大切にせい』と言って、あっちでもバーン、こっちでもバーンと、あちこちで手榴弾の音が…」“日本軍”として戦った台湾原住民が見た「終戦の瞬間」

「日本軍ゲリラ 台湾高砂義勇隊」#2

2022/08/14
note

「命を大切にし、故郷の父母や子供のことを考えなさい」

 また、ツオウ族の荘銀池(第三回高砂義勇隊)によれば、

──ある日、アメリカ軍側の放送局から日本語の声が流れた。高砂義勇隊員はその放送局を破壊しに行こうとしたところ、突然「静粛に」と言われた。それはなんと天皇の声であり、日本が敗戦したことを告げる「玉音放送」であった。

 したがって、われわれに「付近の連合軍に投降せよ」とのことであった。当初、日本兵も義勇隊員も日本敗戦のニュースを受け入れることができなかった。日本兵も義勇隊員も泣き叫び、ある日本将校は「一斉に自決しよう」と呼びかけた。

 だが、部隊長は放送の内容を信じず、割腹自殺を許さず、アメリカ軍の謀略であると断じた。その直後から飛行機でビラが何度も撒かれ、次第に日本敗戦を受け入れるようになった。

 アミ族の張陳龍明の部隊には通信機器はすでになく、「玉音放送」は聞いていない。ただしアメリカ空軍が投下した日本語の「戦争は終わった」というビラを見た。

「日本兵は集団自殺する必要はない。命を大切にし、故郷の父母や子供のことを考えなさい」という内容だった。七個支隊は信じず、抽選で一個支隊を平地に探りに派遣した。

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 その結果、日本の敗戦は間違いないと判明し、ジャングルを出てアメリカ軍に集団投降した。この時、初めて「玉音放送」を聞いた。アメリカ軍は自動車に備え付けた録音機で繰り返し「玉音放送」を流しつづけていた。ただし、誰もそれが「天皇の声」だとは信じなかった。

「『君たちは身体を大切にせい』と言って、あっちでもバーン、こっちでもバーンと、あちこちで手榴弾の音が…」“日本軍”として戦った台湾原住民が見た「終戦の瞬間」

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