満洲で暮らした「白系ロシア人」と共産党
ロシア革命によって、ロマノフ王朝との関係が深かった地主や貴族、将軍将校らの多くは、フランスやドイツ、東ヨーロッパ諸国へ亡命した。
その後、シベリア出兵において日本軍が反革命勢力を支援した経緯があり、ロシア人が朝鮮や南樺太といった「大日本帝国」の圏内へと逃れてきた。その中でもソ連と陸続きだった満洲はロシア人の流入が多かった。
ハルビンは帝政ロシアが建設した街であり、ロシア人社会が形成されていた背景も大きい。満洲国全体のロシア人は7万人を数え、その半数以上がハルビンに集中した。満洲で暮らすロシア人は「白系ロシア人」と呼ばれた。共産党を表す「赤」に対して「白」は反革命派を意味した。「白系」だからといって白人とは限らない。
これら2枚は満洲国の白系ロシア人が手がけたプロパガンダの絵はがきだ。「反共」と「反ソ」の姿勢が貫かれる。ハルビンに拠点を置く満洲国白系露人事務局出版が発行した。
1枚目はソ連を象徴する「赤い星」を突き刺す。剣は日本と満洲の国旗から伸びる。宣伝文句は「新亜細亜ハ反共ノ温床ナリ」だ。日本語・中国語・ロシア語・ドイツ語の4カ国語で表記する。
もう1枚もまた「反共」に徹する。「ANTIKOMINTERN(反コミンテルン)」と銘打ち、矢印が「赤い星」をひと突きだ。「西ハ共産主義ヲ生ミ東ハ之これヲ撃ツ」と訴える。満洲での発行なので、「西」はソ連を意味し、「東」は日本を指す。こちらの1枚は日中露の3カ国語の表記となる。
特段の深い意味はなく、極東の日本と満洲から見れば、「西」に「反共」を掲げるドイツも含まれてしまう。誤解を招くと判断し、ドイツ語を省略したのだろう。