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 また、岐阜県の山間の村落にある全寮制の不登校特例校「西濃学園中学校・高等学校」が2018年に卒業生131人を対象に行った追跡調査によると、14%がいわゆる「ニート」の状態であることがわかりました。ただし、基礎学力が低いからニートになるとか、学力が高ければニートにならないという因果関係がないことがわかりました。

 逆に、ニートになるか否かに影響が最も大きいと考えられるのは、「現実検討のスキル」であることがわかりました。現実検討のスキルとは、理想と現実のバランスをとり、現実を受け入れるスキルのことです。

 現実検討のスキルが低いと、自己愛的な願望や理想の世界から出ることができず、悩むことすらしません。少しスキルが上がると、願望と現実の違いに悩むが現実は拒否する状態になります。

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 さらにスキルが上がると、常に悩みながら現実と向き合おうとし、さらには、悩みは軽減するがネガティブに現実を引き受けている状態になり、最終的にはポジティブに現実を受け止めることができるようになります。正しく課題感を抱えることは、実は望ましいことなのです。

現実検討のスキルを磨くために必要なことは何か

 現実検討のスキルを磨くために必要なことは何か。西濃学園の報告書によると、重要なのは信頼関係の構築と子どもの器づくりの2点。「器」とは、他人の気持ちを尊重したり、他人の意見を受け入れたりする余裕のことです。信頼関係の構築と子どもの器づくりの方法は実はシンプルです。「ありがとう」をいろいろな形でたくさん伝えることだと報告書には書かれています。

不登校特例校西濃中学の理科授業

 器ができた子どもに、信頼関係のある大人が、少しずつ現実を伝えていくと、自分にとって不都合な現実も、少しずつ受け入れられるようになるというのです。ここまでくると、少々耳の痛い話をされても、乗り越えられるようになります。逆に信頼関係と器が十分にできるまでは、現実や正論を無理に突きつけてはいけません。信頼関係を築くだけでもゆうに1年はかかるとも報告書には書かれています。焦りは禁物です。

 子どもの将来を案じるのであれば、優先的に身につけさせるべきは高い学力ではなく、現実検討のスキルであるといえるのではないでしょうか。大切なのは「勉強しなさい」より「ありがとう」だということです。